この連載について
全事研の役員となって事務職員の育成や成長ということを考える中で、学ぶことの重要性を強く認識しているところです。もちろん、体系的な研修制度も資質・能力を身に付ける上で大事ですが、まずは事務職員自身が主体的に学び、学んだことを生かして試行錯誤を繰り返していくことが必要だと感じています。「子どもの豊かな学びのためにも、事務職員として学び続けていきたい」。そんな思いで、私自身の経験から“学び”について考えたことを綴っていきます。

この連載について
全事研の役員となって事務職員の育成や成長ということを考える中で、学ぶことの重要性を強く認識しているところです。もちろん、体系的な研修制度も資質・能力を身に付ける上で大事ですが、まずは事務職員自身が主体的に学び、学んだことを生かして試行錯誤を繰り返していくことが必要だと感じています。「子どもの豊かな学びのためにも、事務職員として学び続けていきたい」。そんな思いで、私自身の経験から“学び”について考えたことを綴っていきます。
新年度になると思い出す光景があります。フラフラと自転車を走らせる新入生の姿です。
20年近く前になりますが、生徒全員が自転車で登校している中学校に勤めていました。そして、私自身も自転車で通勤していました。隣町から学区を横断するように通っていた私は毎朝、生徒に「おはよう」と声をかけながら追い越していました(私の方が速かったのは決して脚力ではなく、自転車の性能のおかげ)。毎朝見ているからこそ気付くことですが、実は、その追い越す生徒の後ろ姿が、4月から5月にかけては明らかに違うのです。身体に比べて大き過ぎる制服を着た新入生が、目一杯にサドルを下げて、操り切れない自転車でフラフラと走っているのです。実際に制御しきれず、まるで吸い寄せられるように田んぼに落ちていく瞬間に遭遇したこともあります。上から声を掛けると、笑顔で返答があったので一安心して、手を持って引き上げました。自転車までは引き上げるのは難しそうだったので、学校に連絡し、二人で救援を待ったのも懐かしい思い出です。
そのようにトラブルがあると、いつも私は自転車を停めて、対応をしていました。中でも多かったトラブルは、荷台に縛ったカバンの落下と、その荷紐がチェーン等に絡まってしまうことです。特に大変なのが、荷紐が絡まってしまったときです。絡まってもすぐに外せば、大きな支障はないのですが、多くの場合はそのまま走ってしまい、チェーンやスプロケットに何重にも絡まってしまっていました。その絡まりをなんとか外そうとは試みるのですが、難しい場合は、生徒から許可を取り、自分が常備しているアウトドア用マルチツールで紐を切って対応するということが多くありました。
このようなトラブルの原因は、自転車に乗ることや、荷物を縛ることに対して不慣れなことがあります。当たり前ですが、不慣れなことは経験を積むことで解決することができます。でも、荷物の縛り方は学習することもできます。実際に紐を切断せずに済んだ場合には、縛り方を教えたりもしました。コツとしては、縛り始めほどきつくすることや、フックに掛ける前のゴム紐が常に下になるようにすること、縛り終えた後でバランスを整えることなどです。さらに自転車で田んぼに落ちないようにするためには、行ったら困ると思うところではなく、進みたい方向に目を向けることも、救援を待ちながら話したように思います。そう、自転車は目を向けた方向に進んでしまうのです。

こんなことわざがあります。「あらたまって習うより、自然に慣れる方が効果がある。学んで覚えられないことも慣れれば自然に知ることができる」という意味です。教えられるよりも、繰り返し経験することで力量を形成していったほうが良いこともあります。私たちの仕事においても同様で、時間をかけて修得したオリジナルのやり方をもっている方もたくさんいることでしょう。
また、習うことと慣れることの“良いとこどり”のOJTという研修方法もあります。現場で実践的に必要な知識・スキルを、先輩などが仕事を進めながら教えていくものであり、効果的な力量形成と考えます。
ところで、今一度、中学校の新入生に立ち戻り、俯瞰してみると、少し違ったことも見えてきます。彼らにとって新しい出来事は自転車通学だけではありません。教科担任制や部活動、異なる小学校出身者との友人関係や、先輩・後輩といった人間関係など、慣れていかなくてはならないものがたくさんあります。そのうちの一つや二つは、“慣れよ”だけではなく、もっと丁寧に説明してくれても良い気もしてきませんか。例えば 、荷物の縛り方くらいは言語化して説明してくれても良いかと。今どきなら、YouTubeに上げておいてもらたい、とも。
新入生や新人を迎えるこの季節、私たちとしては温かく見守るとともに、伝えられることはしっかりと言語化して、分かりやすく説明していきたいと思います。それは彼らにとっての“習う”ということにとどまらず、お互いの適切なコミュニケーションをも促すことになるはずです。
また、人に教えることで自分の理解が深まるということも改めて大事にしたいと思います。自分が感覚や、漠然と覚えていることを、人に伝えるというプロセスの中で言語化することで、頭の中が整理され、より明確な理解につながるのです。加えて、人に教えることを通して、改めて学び直したり、どうやって人に伝えることが良いのかを考えたりすることも、自分自身の学びとして蓄積されていきます。
ところで、あの時自転車で田んぼに落ちてしまった生徒は、2年後には生徒会役員として新入生歓迎会の壇上に立っていました。私とともに救援を待ったことなどはすっかり忘れてしまっているかもしれませんが、後輩に向けて丁寧に中学校生活を語る姿を見て、嬉しく、懐かしく思ったものです。今でも自転車を走らせるのと同じように、目標に目を向けて、走り続けていてくれていると良いなと思います。




