この連載について
高校教育を取り巻く状況が大きく変わっています。そうした中、この先、どうやって魅力ある、特色ある高校に変わっていったらよいのか。中教審委員なども歴任し、高校教育界を牽引する田村知子さんと岡本尚也さん、お二方と共に「探究」していきます。
※本連載は田村さん、岡本さんに隔月交代でご執筆いただきます。

この連載について
高校教育を取り巻く状況が大きく変わっています。そうした中、この先、どうやって魅力ある、特色ある高校に変わっていったらよいのか。中教審委員なども歴任し、高校教育界を牽引する田村知子さんと岡本尚也さん、お二方と共に「探究」していきます。
※本連載は田村さん、岡本さんに隔月交代でご執筆いただきます。
今回は教育界でよく耳にする「探究」という言葉について書きます。この数年、企業や団体の教育への参入が相次いでおり、それ自体は大変良いことだと考えていますが、多くの企業や団体が掲げている「探究」という言葉に対する理解は教育委員会、学校も含め気を付ける必要があると考えております。
この「探究」という言葉は新課程において「総合的な探究の時間」に見られるように中心的な概念として使われており、先述の状況の根源となっています。では、「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」の違いは何でしょうか?という問いに明確に答えられる教育関係者はどれくらいいらっしゃるでしょうか。
ありがたいことに、1年間に全国100校近くの学校現場や教育委員会に触れる機会がありますが、かなり少ない、ほぼいないという認識です。通常の教科で使用する教科書やそれに付随する教材は、教育委員会や学校、教員が新課程の学習指導要領を熟読していなくても、それに準拠したものが手元に届きます。しかし、検定という仕組みがない「総合的な探究の時間」で使用する教材やサービスの現状は、使用する現場の言葉の理解に委ねられているという現状です。
下図が「総合的な学習の時間」と「総合的な探究の時間」との違いを表したものになります。課題(テーマ)に対して生徒が外にいるのが「総合的な学習の時間」、一方で「総合的な探究の時間」は「自己の在り方生き方と一体的で不可分な課題(テーマ)を発見」と書いています。
少し実際の例を踏まえて説明すると「○○県は農畜産業が盛んな県であるが、後継者不足が深刻であり、もっと○○県の農畜産業の魅力を伝える取り組みが必要です」という発表に対して「あなたは将来どうしたいのですか?」と聞くと、「自分は東京に行って、商社で海外との貿易に携わりたいです。」と答えました。「ん?発表内容との関係はあるのかな?」と聞くと「いやー、特には......」となりました。
これは「総合的な学習の時間」での取り組みとなります。例えば、ここから、「この発表を通じて、東京の商社に勤めて○○県の農畜産品を海外にアピールしたいと考えるようになりました」等、気づきがあるとなると、下図の左下で言われている「自己の生き方を考えていく」ことに繋がっていきます。いずれにせよ、「総合的な学習の時間」の範疇となります。一方で、「総合的な探究の時間」は、そもそも自分は何が行いたいのか?どのように生きたいのか?取り組む課題(テーマ)を発見していく過程が重要となります。
学校現場の下地には、そもそもこの違いを理解していない状態が多いという状況と、進路指導で生徒が進学や就職する枠組みがあるにも関わらず、生徒が自分の生き方在り方と一体的で不可分な課題(テーマ)を発見するなんてどう「指導」すれば良いか分からない、という状況があります。本来、これらに対して教員や生徒をサポートするために、教育企業や団体の力が必要になるのですが、残念ながら、「生徒が自分の生き方在り方と一体的で不可分な課題(テーマ)を発見するのは難しい」という言葉と共に、生徒が取り扱う課題(テーマ)を企業や学校が与えるという教材やサービスがかなり多くなっています。
つまり、「探究」という文言を恐らく「総合的な探究の時間」を意識して使っているのですが、「中身は総合的な学習の時間」となっているということです。これは中央教育審議会高等学校教育の在り方ワーキンググループの中間まとめでも指摘されています*1。私自身が「総合的な探究の時間」を行う意義についてお話する際は、①生徒の進路意識や精度を高め、学ぶ意欲の向上を高める、②教科学習の知識や理解によって「総合的な探究の時間」の内容をより深めることができ、教科学習の意味や意義の理解につながる。③リサーチメソッドやお作法を実践的に学ぶことができる、副次的には自分自身のロールモデルや本物との出会い、自然な形での分野融合、進学や進路先での学ぶ意欲等を挙げておりますが、それらの機会の喪失とならないことを願うばかりです。
第4回の記事での宮崎東高等学校定時制夜間部では、自分の生き方や在り方と一体的で不可分な課題(テーマ)の発見から学びへのモチベーションに繋がり、大きな成長を見せてくれました。生徒に期待し、機会を提供をしなければできるものもできるようにならない上、教員の指導力も上がりません。教員の受け持つ授業数、生徒数、教員研修、カリキュラムマネジメント等、同時に考えなければならない事柄が多い「探究」ですが、形骸化してしまわないように、原点となる部分と生徒の持つ可能性については多くの教育関係者で共有して頂きたく思う次第です。
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