この連載について
高校教育を取り巻く状況が大きく変わっています。そうした中、この先、どうやって魅力ある、特色ある高校に変わっていったらよいのか。中教審委員なども歴任し、高校教育界を牽引する田村知子さんと岡本尚也さん、お二方と共に「探究」していきます。
※本連載は田村さん、岡本さんに隔月交代でご執筆いただきます。

この連載について
高校教育を取り巻く状況が大きく変わっています。そうした中、この先、どうやって魅力ある、特色ある高校に変わっていったらよいのか。中教審委員なども歴任し、高校教育界を牽引する田村知子さんと岡本尚也さん、お二方と共に「探究」していきます。
※本連載は田村さん、岡本さんに隔月交代でご執筆いただきます。
第5回では、スクール・ポリシーの策定と運用に生徒が参加した事例を取り上げ、生徒エージェンシーを促進するコツを紹介しました。今回は、複数の学校の事例から、授業研究に生徒を参加させる意義と方法について考えます。
筆者は、京都大学の石井英真先生と共に、2020・21・22年度の3年間、広島県教育委員会が運営する指定校事業*1に運営指導委員として携わりました。全18校の指定校が、自校で生徒に育成をめざす資質・能力に基づいた「マスター・ルーブリック」を作成し、総合的な探究の時間(以下、総探)や学校設定科目などの特色ある「核とするカリキュラム」を開発し、カリキュラムマネジメントに取り組みました。指定校は、毎年、秋に公開授業を行い、指定校や近隣の学校の教職員が参観し協議に加わりました。その一環として、2022年度は、カリキュラム評価の質の向上を図るため、各指定校の公開授業の事後協議会に生徒が参加しました。そのうち6校*2の先生方や生徒たちに、インタビューに協力いただきましたので、そこからの知見を紹介いたします。
A高校・B高校では、総探の生徒発表会を公開しました。事後協議会には、A高校では各学年2人ずつ、B高校では8人の生徒に参加させました。A高校では、事前に協議の流れを説明し、他校の教員からの質問には臨機応変に応答する必要があることを伝えました。結果的には、生徒たちは、他校の教員からの質問に適切に答え、「(同校が育成をめざす)応答する力がついていますね」と評価されました。同校の教員からも賞賛の声が上がりました。B高校でも生徒たちは教員の予想を超えてたくさん話したそうです。発表会では研究内容を「あっさり」と紹介した生徒たちでしたが、事後協議会では、その背後にある苦労や反省点をしっかりと話したそうです。校内外問わず、「そういう学びがあったのか」と気づけました。
C高校では日本史探究を公開しました。4月当初から教科担当者は、授業は「生徒と教員の共同作業」であると伝え、生徒と共に創る授業スタイルをめざしてきたそうです。当日の授業は、生徒のアイデアも取り入れ、2人組のジグゾー法でグループワークをしました。事後協議会に参加する代表生徒を決める際には、「やりたいです」「僕じゃだめですか」という生徒が出てきました。
D高校では、実験手順を生徒たちがじっくり考える「正解が決まっていない」授業が公開されました。生徒たちは「面白かった」という趣旨を堂々と述べました。普段から、生徒と教員の信頼関係があり、生徒たちは誰でも率直に意見を言える状態だったそうです。また、同校では、総探を真に面白いものにすることを意識して、各教科の授業改善にも力を入れていることにも言及しておきます。
E高校では、春に、生徒会の生徒と教員が一緒に話し合い、「マスター・ルーブリック」を生徒なりの言葉で標語にしました。そして、秋の公開研究会時は、3年生の学級からくじ引きで10数名を選び、公開された3つの授業の簡単な反省ののち、生徒と教員が、ルーブリックをもとに、自分たちの学びについて話し合いました。
F高校・G高校では、インタビュー時に生徒も参加してくれました。「考える力がついた」「先生が生徒主体の授業にしたいとおっしゃっていた。そんな授業だったからよかった」「普段の授業も先生たちだけでなくて自分たちも協力してつくっているのがいい」など、自分自身や授業についての感想を述べてくれました。教員が授業研究をしていることについての感想を尋ねたころ、両校とも、「(先生方が)生徒と同じようなことをされていると思って、自分たちのために尽力してくれている」「嬉しい」と言っていました。
以上、各学校の意図や状況に応じて多様な形態で取り組まれました。実は、これまでの調査結果を見る限り*3、私は授業研究への生徒参加はハードルが高いと考えていましたが、いずれの学校も、意外にも易々と取り組まれていました。多くの教員の前で学びを語ることが「生徒の成長にとっていい機会」という捉えも複数ありましたし、「生徒の声を直接聞いてみたい」「授業を参観するだけではわからないことに気づくことができた」「教員の想像上の生徒ではなく実際の生徒をみられた」といった声もきかれました。「生徒がいない方が話しやすいね」という言葉が教員から出た場面もあったようですが、そこは工夫次第で切り分けられるでしょう。また、「もっと生徒の本音を引き出したかった」という声もありました。参観者が、授業の具体的場面の生徒の言動を取り上げて、適切に質問する力を(私自身も含めて)磨きたいものです。最後に、生徒たちの探究的な学びを創造するために、教員自身が探究する姿は「学びのモデル」であり、それを見せることも意義深いことが確認できました。皆様の学校でも、可能な方法・範囲で、育成をめざす力や授業について、直接、生徒と話す機会を持たれてみてはいかがでしょうか。
最後に、インタビューに協力くださった先生方と生徒の皆様に心よりお礼申し上げます。


