2026.02.04

第26回 「学びの多様化学校」を訪ねて|Web学校事務「事務職員と“学び”、事務職員の“学び”」

この連載について

全事研の役員となって事務職員の育成や成長ということを考える中で、学ぶことの重要性を強く認識しているところです。もちろん、体系的な研修制度も資質・能力を身に付ける上で大事ですが、まずは事務職員自身が主体的に学び、学んだことを生かして試行錯誤を繰り返していくことが必要だと感じています。「子どもの豊かな学びのためにも、事務職員として学び続けていきたい」。そんな思いで、私自身の経験から“学び”について考えたことを綴っていきます。

ギターの音色

 エレキギターの音色が響いてきました。よく聞くと、1本とかではありません、いろんな曲が聞こえています。家の周りで聞いたら騒音だと思ってしまうかもしれませんが、学校で聞くとなんだかワクワクしてくるから不思議です。

 これは、ある「学びの多様化学校」を視察させてもらった時の様子です。 順番に案内されて、そのエレキギターが聞こえてきた部屋にたどり着いてみると、6人の生徒が思い思いにギターを弾いていました。一人の生徒にたけしさん(この学校の校長先生がそう呼ばれている)が、「お客さんになにか1曲聞かせてあげてよ。」と言いましたが、その生徒は照れ臭そうに笑いながら「ダメー!」と返していました。

 でも、別の生徒がドラムの前に座ってリズムを刻み始めると、それにみんなが合わせてセッションが始まったようにも聞こえてきました。生徒が楽しそうに音楽を奏でている姿を見ると、幸せな気持ちになってきます。もし、私に音楽の素養があれば歌いだしていたかもしれないですね。

 そのタイミングで気になったのですが、そこには先生がいないのです。聞いてみると今は休み時間とのこと。チャイムが鳴らないから気付かなかったのです。しばらくして生徒たちはギターを置いて教室に戻って行きました。

 

学びの多様化学校とは

 学びの多様化学校とは、教育課程の基準に縛られずに、不登校児童生徒の実態に配慮した特別の教育課程を編成できる学校です。以前は不登校特例校という名称でしたが、その学校に通う子どもや、勤務する教職員らの意見に基づいて令和5年に名称変更されました。

 文部科学省は不登校児童生徒の急増を受けて、全国に300校の設置を目指す方針を打ち出しています(令和7年4月時点では58校)。

 文部科学省が掲げる個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実の理念を、最も柔軟な形で具現化しているのが学びの多様化学校とも言えます。個々の状況に合わせた個別最適な学びを推進する取組として、登校時間の調整を行うことやICT、メタバースの活用による学習支援を行っている学校もあります。また、協働的な学びを推進するために、少人数でのプロジェクト学習等を通じて、他者と関わり社会性を育む取組も多くの学校で実施されているようです。

 形式的な登校を強いるのではなく、生徒が自信を回復し、自立へ向かうための新たな公教育のモデルと言えるでしょう*1

子どもが川に流されているのを見て

 学びの多様化学校を視察して私が思ったことは、不登校という言葉が必要なくなるほど学びの選択肢を当たり前にしたいということです。そして、このような環境を一般の学校に整えたいということです。学校に勤めている方ならば、一時的であったとしても苦しんでいる子どもの姿を見たことがあるでしょう。子どもに限らず誰にだって長い人生では、自分を奮い立たせられない時もあることでしょう。学校生活の中であっても、そのような時は当然にあると思います。そんな時に包摂してあげられる空間や組織文化が社会にも、どこの学校にもあると良いですよね。

 しかし、こうした環境の実現は、仕組みや財政の面から見れば決して容易なことではありません。 事務職員としてその現実を前に立ち止まりそうになったとき、玖珠町の梶原敏明教育長(CSマイスター)の言葉を思い出しました。彼は宴席で自らの手帳を開いて見せてくれました。そこには孟子の言葉「 惻隠 (そくいん) の情」とともに、「子どもが川に流されているのを見て、後先考えず川に飛び込んで助けるのは、人間誰もが持つ『仁』の心」と書かれていました。

 子どもの辛さに気付けることは素晴らしいことです。だからこそ気付きにとどまらずに、できることを、いや、もっと言うなら、できるかもしれないと思っていることまでも実現させていくくらいに徳を高めたいですね。

 ギターを弾いていた子どもたちはずっとギターを続けるでしょうか。別の楽器を始めるかも知れないし、全然違う分野に興味を持つかもしれないです。しかし、あの環境の中で育まれれば、どんな形であれ、私に幸せな気持ちを与えてくれたように、周りの人たちに幸せや愛、勇気を与えられる人になってくれることでしょう。なんだかそう思えました。

 


 

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前田先生からコメント

 事務職員の標準的な職務にも示された学校教育におけるICTについて、事務職員の視点から捉えた書籍『教育ICTがよくわかる本』の発行に携わらせていただきました。それぞれに現場で実践されている事務職員の素晴らしい取組も載っています。学校の現状や、取組の背景、うまくいったこと、うまくいかなかったこと、取組を通して実践者が学んだことなど、読み手にとって考えを広げてくれる本であると強く感じています。事務職員のみなさんの学びのきっかけとなること、そして、事務職員以外の方々には、事務職員との協働や、事務職員の活用を促進していただくきっかけとなることを期待しています。


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