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2026.10.15

【調査リポート】学校の外で広がる教育格差――学習塾・体験活動・部活動と公教育の役割

この記事について

2026年8月26日、公益社団法人チャンス・フォー・チルドレン(以下、CFC)が、「2026年 子どもの教育機会に関する実態調査」報告書を公表しました(以下、CFC調査)。本記事では、千葉工業大学准教授で、「隠れ教育費」研究室の福嶋尚子さんに、CFC調査結果の概要と特に学校関係者が考えるべきポイントについて解説していただきました。

 CFCの調査は、①全国の小1~高3の子どもがいる世帯の保護者7,374人を対象とする「全国調査」(2026年3月に実施)と、②東北、関東、関西の10都府県における、CFCの支援に申し込んだ中2あるいは高2の子どもがいる生活困窮世帯(生活保護受給世帯、児童扶養手当受給世帯等)の保護者419人を対象とする「利用者調査」(2026年2月~3月に実施)の2つで構成されています。対象が異なることにより、広い概念としての教育機会(学校の教育課程内の活動を除く学習活動・体験活動)の状況や、家庭の経済的階層との関係について明らかにしようとするものです。

 特に、文部科学省が行っている「子供の学習費調査」と比較して、CFC調査が有意義なのは、CFC自身も述べている通り、文科省調査が学校外の教育機会に伴う費用に係る調査である一方、CFC調査では、例えば参加費用がほとんどかからないような学習・体験活動への参加状況や、学習・体験活動にそもそも参加していない家庭の状況が明らかになることです。加えて、CFC調査は教育課程の外側にある学習・体験活動といった教育機会を対象としているため、いわゆる「部活動」についても教育課程外として調査対象に包含しています。

学習塾、体験活動、部活動等にかかる費用負担と教育機会の格差

全国調査・体験活動

 全国調査の結果からは、世帯年収300万円未満のほうが、600万円以上に対し、体験活動全般への非参加率(参加していない割合)が、小学生で16.0ポイント、中学生で16.7ポイント高いことが分かりました(高校生では16.2ポイント)。

 特に、小学生では、定期的なスポーツ活動で23.4ポイント、単発で行う自然体験(山・川・海での遊び、キャンプ等)で22.7ポイント、単発で行う文化的体験(旅行・留学、地域行事・お祭り等)で20.0ポイントと、格差が大きくなっています。中学生では、定期的なスポーツ活動で12.5ポイント、単発で行う自然体験で19.4ポイント、単発で行う文化的体験で23.8ポイントです。このことからすると、中学生段階では部活動(定期的な体験活動)が経済的階層に伴う教育機会格差を一定程度是正しているものといえます。

 体験活動への支出額においても、経済的階層の影響が大きく出ています。小学生では、体験活動に参加してはいるものの、費用負担の伴わない(支出額が0円)活動のみに参加しているのは、世帯年収600万円以上の世帯で1.4%にすぎないのに対し、300万円未満の世帯では9.9%にも上ります。体験費用1円~1万円未満も同様に、6.3%と16.2%と差があります。世帯年収が少ない家庭のほうが、費用負担のかからない/軽い体験活動を選んでいることが示唆されています。逆に体験費用として30万円以上かけている家庭は、世帯年収600万円以上の世帯で13.4%に対し、300万円未満では4.5%です。中学生では支出額0円が世帯年収600万円以上でも6.7%と多くなるものの、全体的に小学生と同様の傾向が見られます。

全国調査・学習活動

 同様に、全国調査の結果からは、世帯年収300万円未満のほうが、600万円以上に対し、学習活動全般への非参加率が、中3生で34.1ポイント、高3生で24.0ポイント高くなっています。ちなみに、小学生全体では22.9ポイント、中学生全体では30.1ポイント、高校生全体では22.7ポイントで、受験生である3年生において格差は最大となります。体験活動以上の格差が生じているといえます。

 特に、興味深いのは、同じ世帯年収層の中でも預貯金の状況により学習活動への参加状況に格差があったということです。目立つのは、世帯年収600万円以上の層でも、預貯金が10万円未満の世帯の高3生で学習活動への非参加率は87.5%、預貯金10万円以上の世帯の非参加率は54.0%であり、33.5ポイントという大きな格差が生じています。中3生でも同様に19.6ポイントです。世帯年収が相対的に高い層であっても、預貯金が少ない場合には学習塾等に通わずに受験に挑んでいることが多い、ということが示されています。

 学習活動への支出額においても、経済的階層の影響が大きくなっています。中3生では、支出額が0円の学習活動を選んでいるのは、世帯年収600万円以上の世帯で3.1%にすぎないのに対し、300万円未満の世帯では11.3%にも上るし、支出額1円~10万円未満も同様に、13.0%と19.7%です。他方で、学習活動への支出額として100万円以上を負担しているのは、世帯年収600万円以上で11.8%、世帯年収300万円未満で2.8%です。世帯年収が300万円未満であっても、学習活動に100万円以上かけていることにも驚きますが、それほどに高校受験へのプレッシャーが重たいものであるとも推測できます。

 高3生でも同傾向ですが、中3生に比べると、100万円以上の支出額である割合が、世帯年収300~599万円で19.4%、世帯年収600万円以上で20.8%と、比較すると非常に高くなっています。先ほどの預貯金の有無による学習活動への参加状況の格差を踏まえると、特に高3生において、学習活動に参加するか否か、参加するならばどれほどに費用負担をするか、という点に大きな格差が生じているものといえます。

 子どもが希望する活動を実現できない理由として、世帯年収300万円未満の世帯が挙げたのは、「保護者に経済的な余裕がないから」が75.4%と圧倒的でした。世帯年収600万円以上では、「経済的な余裕がない」(28.4%)よりも、「時間的な余裕がない」(51.8%)や「家の近くに参加できる活動がないから」(31.2%)のほうが割合として高くなっています。

利用者調査・①②

 利用者調査では、「塾や習い事はしていない」が最も多い43.0%を占め、その理由として、95.0%の保護者が「経済的余裕がないから」と答えました。特に経済的に困窮している家庭においては、塾や習い事などの学習活動・体験活動が贅沢なことになっているのは明らかです。

物価高のなかでの子育て家庭の教育費負担

全国調査・物価高の影響

 昨今急激に進んでいる物価高に関わっては、世帯年収300万円未満の世帯では、年収600万円以上の世帯と比べて、学習活動や体験活動への支出について「減らした」世帯が多いという結果となりました。世帯年収300万円未満では、「支出を減らした」と回答したのは、例えば学習活動で15.9%、スポーツで12.7%と、いずれも世帯年収600万円以上の倍程度でした。

 減らした理由としては生活必需品や光熱費等の上昇という回答が多いですが、世帯年収300万円未満では「収入が減ったため」を選んだのが30.2%だったのに対し、世帯年収600万円以上では8.1%でした。物価高自体はどの経済的階層にもほぼ等しく影響を与えていますが、収入減となったのはもともと世帯年収が高くない層で多かったことは衝撃です。

利用者調査・賃上げの状況

 利用者調査では賃上げの有無について尋ねていますが、賃上げ済みと賃上げ予定は合わせても31.8%にすぎず、賃上げされておらずその見込みもない、という回答は52.6%と半数を超えています。物価高の状況にあっても収入が増えていない世帯のほうが多いことが示唆されます。

教育課程外で生じている教育機会の格差を学校・自治体がどう捉えるか

全国調査・教育機会と子どもの様子

 教育課程外における教育機会(学習活動・体験活動)の確保について、CFCはおそらくあえて自治体もしくは学校の責任を問うようなことは述べていません。しかし、CFC調査の結果は、教育課程外だからといって自治体・学校が無関係に徹することができるか、考えさせるものがあります。

 教育課程の外における学習活動への参加の有無と保護者が認識している子どもの学校での成績について、学校の成績が「下の方」(7段階で1~3)と答えたのは、学習活動への参加ありの場合は23.5%に対し、参加なしの場合は28.2%でした。逆に「上の方」(7段階で5~7)と答えたのは、参加ありの場合は48.3%に対し、参加なしは38.1%を占めます。これは他の子どもとの相対評価に基づく我が子の学校の成績についての保護者の認識である点は注意が必要ですが、注目するべき結果であると思われます。

 また、体験活動への参加と子どもの様子(「興味を持ったことに打ち込む」「一度決めたことは最後までやりとげる」「自分に自信を持っている」「困ったときには人に助けを求める」「難しいことや新しいことにいつも挑戦しようとする」「友だちと一緒にいるのが楽しそうだ」)について、参加なしよりも参加ありのほうがいずれも肯定的な回答が多いです。また、子ども本人が希望して参加している学校外の活動が1つ以上ある場合は、保護者の認識している子どもの学校の成績や子どもの様子(上述)が高い傾向がみられました。ただし、CFCは非常に慎重に、「本分析は因果関係を示すものではない」と述べています。

 この結果を受けて、公教育を担う学校関係者としてどのような責任をどこまで引き受けるべきかを答えるのは、容易なことではありません。だからこそCFCもここまで慎重に述べているものと考えられます。それでもなお、公教育の関係者の一人としての筆者が個人的に考えるのは、教育課程内の学習活動や体験活動を、より充実したものにしていくしかないのではないかということです。

 特に公立中学校においては部活動の地域移行、地域展開が進んでいる今、これを再び学校が引き受け、あるいはさらに教育課程の中に入れ、教職員が様々な教育機会を今まで以上に確保していくというのは現実的ではありません。その上、これまでも指摘されてきたように、教育課程内の職務に割くべき労力や予算までをそちらに回さざるを得なくなる可能性があります。部活動以外の、放課後や朝の時間の補習などの学習活動、子ども会等の地域活動も同様で、これらを学校が引き受けていくのは困難でしょう。

 しかし、CFC調査で示唆されたように、教育課程外の学習活動により子どもの学校での成績が多少なりとも左右されているとすれば、それは教育課程内の学習活動だけで学校の成績が決まっていないことを指し、大いなる矛盾が存在していることになります。少なくとも、学校の授業にしっかり取り組んでいれば授業のスピードについていける、成績評価は授業で取り上げている範囲で厳密に行われていることなどを担保することで教育課程の中で学びを完結できるような学校を目指していく必要はあるでしょう。


 

もっと詳しく知りたい人へ

著者プロフィール

千葉工業大学教育センター 准教授
「隠れ教育費」研究室チーフアナリスト
新潟大学大学院教育学研究科修士課程を経て、2011年、東京大学大学院教育学研究科の博士課程に進学。千葉工業大学助教を経て現職。2016年12月に博士号(教育学)取得。モットーは「子どもを排除しない学校」「学校の自治」「公教育の無償性」の実現、「教職員の専門職性 」の確立。著書に『子どもの権利が満たされる学校へ――学校の生きづらさをほぐす』、共著に『学校事務の新潮流――歴史・制度・実践から考える学校経営と教育活動をつなぐ学校事務』(いずれも学事出版)など。

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