この連載について
この連載では、2022年12月に改訂された『生徒指導提要』や、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターで行っている学校風土といじめに関する調査研究などをご紹介していきます。広く、学校で働く教職員、保護者、地域の皆様にお読みいただきたいです。なぜなら、子どもの総合的な発達は、学校や家庭、地域を子どもたちがどう認識し、経験しているかが重要になるからです。そのために、生徒指導が果たす役割、機能はとても重要なのです。

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この連載では、2022年12月に改訂された『生徒指導提要』や、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターで行っている学校風土といじめに関する調査研究などをご紹介していきます。広く、学校で働く教職員、保護者、地域の皆様にお読みいただきたいです。なぜなら、子どもの総合的な発達は、学校や家庭、地域を子どもたちがどう認識し、経験しているかが重要になるからです。そのために、生徒指導が果たす役割、機能はとても重要なのです。
第5回「『学校とのつながり』の意識を育む意義-いじめの未然防止の観点から-」に続き、今回も2024年3月に刊行された国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターから『「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究(令和2・3年度調査)」最終報告書』(以下「最終報告書」)を読み解きます*1 。最終報告書は、以下の国立教育政策研究所のHPから無料でダウンロードすることができます。
「生徒指導上の諸課題に対する実効的な学校の指導体制の構築に関する総合的調査研究」(以下「学校指導体制調査研究」)から、生徒の学校に対する愛着や所属意識である「学校とのつながり」を生徒に育むことで、いじめの加害の抑止につながることが示唆されました。
そしてさらなる分析の結果、生徒の「学校とのつながり」の変化は、「時間」と関連すること、また、「学校」とも関連すること、さらに、「時間」による変化はどの「学校」に在籍するかに関連することが見出されました*2 。
このことは何を意味しているかというと、「学校とのつながり」を育むことに肯定的な影響を及ぼしている学校もあれば、一方で、「学校とのつながり」を育むことが厳しい状況にある学校もあり、どの学校に在籍するかで、生徒はいじめの加害者になることや、被害者になることのリスクが異なる可能性があるということです(生徒の加害行為が増えれば当然、それに伴い、生徒の被害経験も増えることが想定されます)。
「学校指導体制調査研究」では、生徒の「学校とのつながり」について、学校間によって意味のある差が生じているとすると、その違いは学校のどのような特性にあるのか、その手掛かりを得るために、生徒調査だけでなく教員調査もあわせて行い、学校の組織文化・風土の観点から、教員の調査票を開発し、アプローチしています。
具体的には、学校の先生方の支援の充実感(主に、生徒指導や教育相談、授業改善)が、生徒の「学校とのつながり」などの意識に関連するかどうか検証しています。結論から述べると、4回の調査において、教員が認識する生徒に対する支援の充実感は、生徒の「学校とのつながり」やそれに関連する要因と一定の相関関係が見られることが明らかになりました*3。つまり、教員側の生徒への支援の充実感は、決して教員の独りよがりではなく、生徒側の学校に対する認識に関連していたということです。教員による支援の充実感が肯定的であればあるほど、生徒の側も「学校とのつながり」やそれに関連する要因について肯定的である傾向が確認できました。
では、教員側の生徒への支援の充実感は、どのような要因に支えられているのでしょうか 。「最終報告書」では、生徒への支援の充実感の背景には、情報共有や共通理解の影響が見られました(図)*4。そして、この情報共有や共通理解には、関係性の影響が確認できました。ここでいう関係性とは、管理職と教職員、また、教職員同士にとどまるものではありません。児童生徒と教職員、さらに、保護者と教職員といった広範な人間関係についてです。これらの人間関係が良好であるほど、情報共有と共通理解が進む可能性があるということです。

管理職や教職員、児童生徒、保護者との関係を良好にしていくために、どのような手立てが考えられるでしょうか。「学校指導体制調査研究」では、関係性に影響を与える要因として、教職員同士の「学び合い」を仮説として設定し、検証しています。

上の表にある通り「学び合い」の各質問項目は、決して授業研究といった大掛かりで、フォーマルな学び合いのみを想定したものではありません。児童生徒や保護者、地域の多様化が進む中で、ベテラン、若手といった経験年数を問わず、教育上の問題や困難に直面することは多くあるでしょう。また、地域によっては年齢構成の二極化等が進み、組織マネジメントの課題に見舞われている学校も多くあると思われます。そうした状況にも鑑み、この「学び合い」については、どれだけ学校の先生方一人一人が、周囲から生徒指導や教育相談、保護者対応、日々の授業等について、サポートを得られやすいか、そして、そのサポートを通して、気付きを得て、学びにつなげられているかということを念頭に設定したものです。
この日頃からのインフォーマルなサポートを含む「学び合い」は、管理職や教職員、児童生徒、保護者との「関係性」に肯定的な影響を及ぼしていることが明らかになりました。もちろん、学校の組織文化・風土を良好なものとしていく上で、「学び合い」は無数の要因のうちの一つにすぎないかもしれません。ですが、今回の「学校指導体制調査研究」の結果は、教え合いや支え合いといった側面も含む、「学び合い」を学校として、どのように工夫し進めていくことができるか、管理職やミドルリーダー、若手の先生、それぞれの立場で、意識して実行に移していくことの意義を強調するものといえます。 良質な生徒指導を行うには、それを担う、学校の先生方一人一人が、管理職や同僚の先生方から大切にされ、尊重され、支援を受けているという実感が必要なのだと考えます。そして、この実感は、管理職や同僚の先生方からだけでも十分ではなく、願わくば、保護者や地域からも必要なのだと考えます。


