2024年9月、文化庁の調査で1カ月に1 冊も本を読まない人の割合が6割を超えていることが報じられ、大きな話題となりました。学校図書館は、子どもたちが読書に親しむ機会を生み出す重要な存在であり、誰もが読書ができる環境整備の視点が求められています。学校図書館の今後と読書バリアフリーの取り組みについて、全国学校図書館協議会の理事長で、昨年12月に『学校の「読書バリアフリー」はじめの一歩』を上梓された野口武悟さんにお話を伺いました。
学校図書館の機能と役割
──「学校図書館」は、そもそもどのような存在でしょうか。
1954年に施行された「学校図書館法」では、学校図書館設置の目的が2つ掲げられています。「学校の教育課程の展開に寄与する」こと、そして「児童又は生徒の健全な教養を育成すること」です。特に前者のニーズは、「主体的・対話的で深い学び」が求められる現代において、さらに高まっていると言えるでしょう。
現行の学習指導要領では、小・中・高・特別支援学校、すべての校種の総則で「学校図書館を計画的に利用しその機能の活用を図り、児童(生徒)の主体的・対話的で深い学びの実現に向けた授業改善に生かす」と書かれています。国が強調する「探究的な学び」――「いろいろな情報にアクセスする中で自らの問いを見つけ、解決していく」というプロセスの学びの中で、子どもたちが本を中心とした様々な情報を持つ図書館を活用することは必須と言えます。つまり、教員が学校図書館をどのように使って、子どもたちの学びを深めていくかが問われているのです。
また、文部科学省が2016年に通知した「学校図書館ガイドライン」では、学校図書館の基幹的な機能として、学びを深めていく拠点としての「学習センター機能」、情報活用能力を育んでいく拠点としての「情報センター機能」、そして従来から多くの方が捉えているような「読書センター機能」が挙げられています。
──学校図書館には運営上どのような課題があるでしょうか。
図書館の機能を成り立たせるには、「施設(スペース)」、本や雑誌・新聞などの「資料・情報源」、司書をはじめとした「職員」、そして「利用者」の4つの要素があるとされています。この中で大きな課題を抱えているのは「資料・情報源」と「職員」です。具体的には、前者は電子書籍やデータベースなどデジタル資料の導入が遅れている点、後者は担当する専門職員の配置が進んでいない点です。特に後者については、残念ながら、小規模校を中心に学校司書の配置がない学校も少なくありません。教員の立場で関わる司書教諭と、図書館の専門家の立場で関わる学校司書が両輪としてしっかりと機能するように全校配置を進めてもらいたいでと考えています。
いずれも背景には、環境整備にかかる予算の問題が大きくのしかかっています。学校図書館はもちろんのこと、学校教育全体への予算拡大を含めて、国としての支援の充実が望まれます。
「読書バリアフリー」とは?
──昨年12月に読書バリアフリーについての入門書『学校の「読書バリアフリー」はじめの一歩』を刊行されました。改めて「読書バリアフリー」について教えてください。
一言で表現すると「誰もが読書できる環境を整えていこう」という考え方です。例えば目が見えづらい人や、文字が認識しづらい人など、世の中には様々な特性をもつ人がいます。それらの人に対して「配慮しなければ」と考えるだけではなく、誰もが読めるように環境を整えたり改善したりしていきましょう、ということです。
関連する法律として、2019年に「読書バリアフリー法(視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律)」が成立しました。「視覚障害者等」と書かれているので、「目の不自由な人のための法律」と思われがちですが、そうではありません。ここで指す「視覚障害者等」に当てはまるのは、学校現場で言えば特別支援教育を受けている子どもたちと重なります。今、義務教育段階で特別支援教育を受けている子どもは約6.3%、高校でも通級指導を行っている学校が徐々に増えています。ですから、すべての学校に支援ニーズのある子どもが学んでいるという前提で、学校図書館の環境づくりをしていかなければなりません。「誰一人取り残さない」読書の推進や、学びを深めるために図書館を生かせる環境をどのようにつくるかが問われているのです。
──「はじめの一歩」は何から踏み出せばよいでしょうか。
まずは、教職員はもちろんのこと、保護者や地域の方々も含め、子どもたちを支えるすべての人たちが「どういうことにバリアがあるのか」「バリアフリーはどう進めたらいいのか」ということを知ることが、何よりも重要だと思います。
「読書バリアフリー」は決して特別なことではなく、すべての子どもたちの読書の可能性、学びの可能性を広げる取り組みです。例えば「視覚障害者等」ではない人が、大きな活字の本を読んでもいいわけです。メインターゲットにしているのは「視覚障害者等」に該当する子どもだとしても、障害のない子どもが「大きい文字の本の方がなんか好き」と思って読み始めることも、広く捉えると、誰にとっても利用しやすい図書館づくりと言えるでしょう。
「読書バリアフリー」を進める環境整備
――具体的な環境整備としてはどのようなことが挙げられますか。
まずは「バリアフリー図書を導入する」ことです。具体的には「大きな活字の本」や「点字図書」「LLブック*1」など、様々なバリエーションがあります。その中でも近年注目されてきているのが「DAISY図書」と呼ばれるデジタル図書で、子どもの手元の端末でも利用できます。音声の読み上げや字の拡大がとてもやりやすくなっています。そうした図書の種類の充実も大事です。
また、「読むことを補助する道具」を用意することも必要でしょう。例えば、地域の公共図書館に設置されているような「拡大読書器」は、学校でも設置ニーズがあります。しかし、導入には相応の費用がかかりますので、計画的な整備が必要です。
予算をそれほどかけずに、比較的簡単に導入できるものを挙げると、例えば「リーディングトラッカー」があります。シートの細長い一部分だけが透明になっているというとてもシンプルな道具です。似たようなもので、真ん中の部分をページに当てると、文字が2倍の大きさに拡大される「リーディングルーペ」もあります。どちらも、ページに当ててずらしながら読むことで、特定の行だけに焦点が合って文字が読みやすくなる道具です。「ディスレクシア*2」の方などの読書をサポートします。特に「リーディングトラッカー」は、クリアファイルで手作りすることもできます。学校によっては、図書委員会の活動で子どもたちが作成したり、本と一緒に借りられるようにしているところもあります。

その他には例えば、豊島区立中央図書館では、先ほど紹介したバリアフリー図書や道具を1箇所にまとめた「りんごの棚」というコーナーをつくっています。これは、バリアフリー図書などを多くの人に知ってもらい、使ってもらいやすくするための取り組みです。1993年にスウェーデンの図書館で始まり、次第に他の国々の図書館にも広まっていきました。日本の学校図書館でも、「りんごの棚」を導入していこうという動きが出始めています。規模にかかわらず、こうしたコーナーをつくっていくことも大事な取り組みです。
図書館担当だけに任せない!それぞれができることを
──読者へのメッセージをお願いします。
学校図書館の環境整備や読書バリアフリーの推進は、司書教諭や学校司書だけでなしうるものではなく、すべての学校関係者の理解と協力が不可欠です。まずはぜひ、「読書バリアフリー」について知っていただければと思います。その上で、それぞれの職務や専門性の中で、できることを見つけて取り組んでいただけたら嬉しいです。
例えば、地域連携担当教職員の方は、地域の公共図書館や外部機関との連携に取り組んでみてください。文字・活字文化推進機構という団体が、学校向けに無償で「読書バリアフリー体験セット」を貸し出したり、「読書バリアフリーサポーター養成講座」を開講したりしています。地域の図書館で熱心にバリアフリー図書を集めている図書館があれば、そこから借りてきて展示をするなども考えられるでしょう。
また、バリアフリー図書は通常の書籍より高価なものが多いです。バリアフリー推進用の予算をつけられるのが理想ですが、それが難しければ限られた図書予算で少しずつ購入していくことになるでしょう。事務職員をはじめ学校予算の担当をしている方であれば、計画的な整備を進めるための予算獲得を目指したり、管理職や図書館担当者と協力しながら予算作成・執行を進めたりしていただければと思います。
そして、最後に校長先生。意外にご存じない方もいらっしゃいますが、学校図書館の館長は各学校の校長です。ここまでお話ししてきた読書バリアフリーや環境整備など、館長のリーダーシップにかかっている面も大きいのです。ぜひ、図書館についてもより深く知っていただき、 活用や環境整備に尽力いただきたいです。
一人でも多くの学校関係者に「はじめの一歩」を踏み出していただくことで、「読書バリアフリー」の輪が広がることを願っています。





