2025.03.19

第15回 学校のいじめ対策が機能しているか確認・点検する② -学校いじめ対策組織の運営-|Web月刊生徒指導 「新しい生徒指導」の基礎基本 ーいじめ編ー

この連載について

この連載では、広く、学校で働く教職員、保護者、地域の皆様に向けて、2022年12月に改訂された『生徒指導提要』や、国の施策、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターで行っている調査研究などをもとに、生徒指導の基礎・基本をご紹介していきます。特に、2025年1月からは、いじめや不登校などの生徒指導上の諸課題をテーマに連載をします。

 今回は、前回に引き続き、学校のいじめ対策が機能しているかを確認・点検するためのポイントを述べます。今回は、いじめ防止対策推進法第22条において、それぞれの学校に設置が義務付けられている学校いじめ対策組織を扱います。

学校に「いじめ対策組織」が必要な理由

いじめ防止対策推進法第22条

学校は、当該学校におけるいじめの防止等に関する措置を実効的に行うため、当該学校の複数の教職員、心理、福祉等に関する専門的な知識を有する者その他の関係者により構成されるいじめの防止等の対策のための組織を置くものとする。

 学校で働かれている先生方、学校にお子さんを通わせている保護者の方、また、学校の教育活動などに関わられている地域の皆さん、自校の学校いじめ対策組織のメンバーはどなたで構成されているか、定例会はいつ行われているのか、あるいは、その他、どのように日頃、運営されており、どういった活動が行われているか、ご存じでしょうか。もし、学校いじめ対策組織の活動を知らない、そもそも、そのような組織が学校にあることを知らなかった、あるいは、組織自体は校務分掌上に位置付けられているけれど特に活動していない、という学校があれば、残念ながら、たとえどのような理由があれ、その学校は、いじめ対策に対してモチベーションが低く、十分な支援や対応を期待できるものではないでしょう。

 いじめ、特に、暴力を伴わないいじめである「仲間はずれや無視」、「冷やかし、からかい、悪口」などは、誰にでも起こりうるものです。また、いじめの被害経験は、児童生徒に中長期的にマイナスの影響(例:PTSD、メンタルヘルスや行動上の問題、不登校など)を与える場合があることに鑑みると、いじめ対策は、学校組織開発において、最重要に掲げられるべきテーマであるともいえます。

 学校はいじめ対策だけをする場所ではないという意見は当然あるでしょう。ですが、いじめは、学力だけにとどまらない子どもの総合的、全人的な発達(例:社会性や情緒[感情]など)に寄与する学習環境(学校風土)に深く関係するものです。いじめのない安心・安全な学習環境を形成してこそ、学校が目指す教育目標の実現にアプローチすることができます。そのため、どの学校もいじめ対策は、主体的に、かつ、当事者意識をもって、取り組む必要があります。

 いじめ防止対策推進法第11条第1項の要請を受けて、文部科学省は、2013年10月に「いじめの防止等のための基本的な方針」(以下、「国の基本方針」とする。)を策定し、2017年3月に改定がなされています*1。全42頁(別添資料除く)から成るこの「国の基本方針」について、「組織」という用語を検索すると、小見出しでの使用も含めて253件もヒットします。「国の基本方針」は、いじめの防止等のための対策の基本的な方向に関する事項、対策の内容に関する事項、その他の対策に関する重要事項等について記載されたものであることを踏まえると、「国の基本方針」がいじめ対策について、いかに組織を強調しているかが読み取れます。

いじめ対策「組織」が求められる理由

 それでは、実際に「国の基本方針」では、組織についてどのような記載がなされているのでしょうか。紙幅の都合上、とても全てを掲載できませんが、ごく一部を以下に取り上げます。下線は筆者による強調箇所です。

  • いじめの問題への対応は学校における最重要課題の一つであり、一人の教職員が抱え込むのではなく、学校が一丸となって組織的に対応することが必要である。」(p.1)
  • いじめの認知は、特定の教職員のみによることなく、法第22条の学校いじめ対策組織を活用して行う。」(p.5)
  • いじめがあることが確認された場合、学校は直ちに、いじめを受けた児童生徒やいじめを知らせてきた児童生徒の安全を確保し詳細を確認した上で、いじめたとされる児童生徒に対して事情を確認し適切に指導する等、組織的な対応を行うことが必要である。」(p.7)
  • 「学校は、いじめの防止等のため、学校いじめ防止基本方針に基づき、学校いじめ対策組織を中核として、校長の強力なリーダーシップの下、一致協力体制を確立し、学校の設置者とも適切に連携の上、学校の実情に応じた対策を推進することが必要である。」(p.23)
  • 「特に、事実関係の把握、いじめであるか否かの判断は組織的に行うことが必要であり、当該組織が、情報の収集と記録、共有を行う役割を担うため、教職員は、ささいな兆候や懸念、児童生徒からの訴えを、抱え込まずに、又は対応不要であると個人で判断せずに直ちに全て当該組織に報告・相談する。」(p.27)
  • 加えて、当該組織に集められた情報は、個別の児童生徒ごとなどに記録し、複数の教職員が個別に認知した情報の集約と共有化を図る。」(p.27)

 学校には、いじめの防止、早期発見及び対処についての責務があります(いじめ防止対策推進法第8条)。上記の「国の基本方針」を確認すると、この防止や早期発見、対処全般において学校いじめ対策組織が中核となり、取組の充実・改善を図るために位置付けられていることがわかります。

 『生徒指導提要』では、学校いじめ対策組織の役割を以下の5つの点からまとめています*2

学校いじめ対策組織の具体的な役割(下線は筆者)

  1. 学校のいじめ防止基本方針に基づく年間指導計画(いじめアンケートや教育相談週間、道徳科や学級・ホームルーム活動等におけるいじめ防止の取組など)の作成・実行の中核的役割を果たす。加えて、校内研修の企画・実施も重要な役割である。
  2. いじめの相談・通報の窓口になる。複数の教職員が個別に認知した情報を収集・整理・記録して共有する。教職員が感じた些細な兆候や懸念、児童生徒からの訴えを抱え込んだり、対応不要であると個人で判断したりせずに、進んで報告・相談できるように環境を整備することが重要である。
  3. いじめの疑いのある情報があった場合には、緊急会議を開催し、情報の迅速な共有、関係児童生徒へのアンケート調査や聴き取りの実施、指導・援助の体制の構築、方針の決定と保護者との連携といった対応をする。
  4. 学校のいじめ防止基本方針が学校の実情に即して適切に機能しているか否かについての点検を行うとともに、いじめ対策として進められている取組が効果的なものになっているかどうか、PDCA サイクルで検証を行う役割を担う。
  5. いじめの重大事態の調査を学校主体で行う場合には、調査組織の母体にもなる。

 学校いじめ対策組織は、以下のようなメンバーが例として考えられます。『生徒指導提要』では、生徒指導と教育相談との一体的な取組みを求めており、学校の管理職、生徒指導主事と教育相談コーディネーター等をコアメンバーに、養護教諭や、心理・福祉の専門職であるSC、SSWの関与が求められます*3

学校いじめ対策組織の例

 ですが、SCやSSWの出勤日を待っていては、いじめが発生した時(いじめの疑いを含む)に、迅速な対応ができない場合もあるでしょう。そのため、学校いじめ対策組織は、日頃の子どものトラブル全般について報告・相談できる窓口担当の教員(例えば、学年主任や学年生徒指導担当)を複数名設けるなどし、迅速な情報共有や事実確認、初期対応を可能とする、機動的な連携ができるチームとするべきです。一方で、年間指導計画上に、メンバー全員が参加する定例会なども設け、状況や進捗の確認、学校の取組の点検(学校いじめ防止基本方針を踏まえて)等を行います。

 


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