2025.07.09

第4回 高校改革のグランドデザインから改めて問いたい、「選ばれる学校」とは何か|Web月刊高校教育 深掘り!高校教師が知っておきたい最新教育ニュース

この連載について

現代は「予測困難な時代」と呼ばれて久しいですが、学校教育を取り巻く状況も複雑化し、大小さまざまな変革が起こっています。本連載ではその中でも、高等学校の教職員に特化した教育ニュースを、報道だけでは見えてこない側面にもスポットを当てつつご紹介します! 教育現場の最前線に立つ教職員のみなさまにとって、お役に立つことはもちろん、今話題の・これから要注目になるであろう最新ニュースをお届けします。

「高校教育改革に関するグランドデザイン」(仮称)へ懸念の声

 公立高校の魅力向上を、政府主導で進める計画が打ち出されました。「高校教育改革に関するグランドデザイン」(仮称)とし、授業料無償化で私立志向が高まる中、公立高校の再編や「選ばれる学校づくり」を促すという狙いです*1

 しかし、こうした議論を聞いた現場や識者からは、困惑の声が上がっています。大きくは、「選ばれる」という概念が市場競争的な論理で語られる可能性、「魅力ある公立高校」の姿を国が定義して画一化することへの懸念、そして、それらの“魅力”に符合しない高校を統廃合するための自己責任論にすり替えているのではないかといった点です。

市場の原理で学校に競争をあおることのリスク

 確かに「生徒に選ばれる学校」を目指すことは重要でしょう。しかし注意したいのは、この「選ばれる」という言葉を、単なるマーケティングの「消費者選好」のように解釈する危うさです。

 ビジネスでは、しばしば「プロダクトアウト」「マーケットイン」という言葉で商品開発が語られます。前者は、企業が作りたいもの・売りたいものを、後者は顧客のニーズに応えるものを売る、という考え方です。しかし、学校はサービス産業ではありません。マーケットインの発想に全振りした学校づくりは根幹を見失います。教育とは、地域の未来を共につくる公共的な営みであるはずだからです。

 そうした意味でも、魅力向上を名目にした競争誘導型の政策は、むしろ学校間の格差を固定化、あるいは拡大させる危険性をはらんでいます。各地域の特色や事情を考慮しないまま「とにかく人気を取り戻せ」と号令をかけても、本質的な解決にはならないと言えるでしょう。

 

地域の声に「耳を傾けること」と「おもねる」ことは、似て非なるもの

 そもそも学校改革は「この地域をどうしたいのか」「どんな人を育てたいのか」という教育ビジョンが先にあり、それを実現する手段として再編や魅力化を議論すべきです。しかし今の政策議論は、「魅力を上げろ、できなければ統廃合」という競争論理が先行しているようにも見えます。これでは学校は理念を失い、短期的な成果主義に走らざるを得なくなるでしょう。

 こうした競争は、学校を「地域や保護者・生徒におもねる」存在に変えかねません。「進学実績を上げろ」「特色を打ち出せ」「人気を取り戻せ」というプレッシャーは、学校を「地域の要望に従う便利屋」にしやすいのです。もちろん地域の声に耳を傾けることは大切ですが、それだけでは教育は成立しません。

 特に地方では、生徒数が減っても、交通が不便でも、地域に不可欠な学校があります。そうした学校が「魅力向上プランを練り上げる体力」さえ奪われているのに、あまつさえ、仮に政府の「グランドデザイン」で示す姿が「魅力ある学校」であり、それに沿えない学校を努力不足や自己責任と見なすのであれば、それは地域の構造的課題を切り捨てる論理にほかなりません。

魅力を生み出すための「管理」ではなく「支援」を

 では、私たちはどうしたらよいのでしょうか。大切なのは、地域社会全体の将来像を住民、行政、産業、学校が一緒に描くことだと思います。学校単体で、あるいは国が一方的に「魅力化」を叫んでも、地域の問題を解決することはできません。

 例えば「知識・技能」だけでなく、「地域に必要な人材を育てる」「地域文化を守り育てる」「多様な生徒を支え、彼らのウェルビーイングに寄与する」といったミッションも含めて、初めて学校は地域に「選ばれる」だけでなく、「地域を変える力」を持ちます。

 そしてそのためには、学校現場が自律性と裁量を持つことが不可欠です。上から統廃合をチラつかせて「頑張れ」と迫るのではなく、自治体や国は学校を信頼し、挑戦を後押しし、失敗も許容する仕組みを用意することが求められます。現場を疲弊させる「管理」ではなく、現場が挑戦し続けられる「支援」こそ必要なものではないでしょうか。

自校が果たすべき役割とは何か、改めて問うてみよう

 公立高校改革をめぐる議論が進む今こそ、私たちは問わねばなりません。自校の魅力とは何か。この地域でこの学校が果たすべき役割とは何か。短期の成果競争ではなく、次の世代の地域社会を育むために、私たちはどんな教育をするのか。

 その問いを、学校組織と先生方一人ひとりが心に持ちながら、地域や社会と対話を重ね、挑戦を続けていくこと――それが教育改革の真の意義であり、公立高校の本当の魅力を生む道だと信じています。

 


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