悩める先生方からいただいた日々の仕事の中で困っていること・助けてほしいことなどのお悩みに対し、処方箋…書方箋として教育書を紹介します!
コンシェルジュは、教育書を読み漁り、その蔵書は1000冊以上!という現役小学校教師・ りょー先生こと杉本遼さん。
ただただ悩みに合った書籍を紹介するだけではなく、りょー先生がその本から学び、実践してきた経験を交えながら、解決への糸口を見つけ出していく、まったく新しい実践的ブックレビュー企画です!!
また、本連載では読者の皆さまよりお悩みを受け付けております!
りょー先生に相談してみたい!という方はこちらのフォームよりご応募ください!!
◉今回の質問
「どうすれば「子どもに任せる授業」ができるのでしょうか?」
最近、「自由進度学習」や「自己調整学習」といった言葉をよく耳にします。
授業で「子どもに任せることが大事」とも言われます。
「個別最適な学び」を実現したいですが、正直わかるようなわからないような…。
「子どもに任せる」と言っても、全部子どもに任せてしまったら授業として成り立たないですよね!?
そして、それができるなら学校で学ぶ意味や教師がいる意味もなくなってしまうのではないですか!?
任せすぎて授業が崩れてしまうのも怖いです。しかし、いつまでも教師が指示でコントロールしてしまうのも違う気がします。
一体、授業の何をどう変えていけばいいかわかりません。
どうすれば、少しずつ「子どもに任せる授業」にしていけるのでしょうか。
そのためのヒントがあれば、ぜひ知りたいです。
(くぼさん 熊本県)
1 今回のテーマ
「令和の日本型教育」で示された「個別最適な学びと協働的な学びの一体的な充実」の流れから、「自由進度学習」や「自己調整学習」といった言葉が注目されています。各社から関連する書籍が次々と出版されていることからも、その熱が感じられます。
ただし、これまで実践してきた授業を180度変えて「自由進度学習や自己調整学習をやればいい!」ということではないと思います。反対に、「そんなの関係ない!これまで通りでいいんだ!」ということでもありません。
新しいキーワードは、それをきっかけに「自分には何ができるかな?」「教師としてどうレベルアップしていこうかな?」と考えることが大事なのだと思います。私自身も「個別最適な学びをどう実現するの?」「これまでの授業とどう違うの?」「子どもに任せるって、何を、どう任せればいいの?」といった問いをもちながら、授業について考えてきました。
こうした問いや迷いは、質問者さんだけでなく多くの先生が抱いているものだと思います。
そこで今回は、「子どもに任せる授業」について、いくつかの書籍を手がかりに考えてみたいと思います。
2 書方箋

『しっかり教える授業・本気で任せる授業』(ぎょうせい)
奈須正裕/シリーズ編集代表
齊藤一弥・奈須正裕・佐野亮子/編者
この本の中で、奈須正裕(なす・まさひろ)氏は、授業において教師が念願に置くべき最優先の目標は「豊かな学力の確かな定着」だと述べています。
それを達成するための教師のスタンスとして、「先生がきちんと教えるべきだ」という考えもあれば、「子どもにできるだけ任せた方が自分の学びになる」という考えもあります。ただ、両者はこれまで対立するもののように語られることが多いものでした。
しかし奈須氏は、「どちらが正しい」というものではないと指摘しています。むしろ、しっかり教えることと子どもに任せることを場面に応じてうまく組み合わせた方が、子どもの学びは確かなものになるのです。
つまり大事なのは、「教える」か「任せる」かの二者択一ではなく、授業の中でどの部分を教え、どの部分を任せるのかを見きわめることです。その判断のよりどころとなる原則を理解し、状況に応じて柔軟に授業をつくっていくことが、教師に求められています。

『個別最適な学び・協働的な学びの考え方・進め方』
(黎明書房)加藤幸次 著
この本の中で、加藤幸次(かとう・ゆきつぐ)氏は、一斉授業の基本的な骨組みを「同一課題・同一時間・同一教材・同一結論」と整理しています。
つまり、一人の教師が同じ課題を提示し、同じ時間内に、同じ教材を用いて、子ども全員が同じ結論にたどり着くという形が、一斉授業の典型的な枠組みだと述べています。
一方、加藤氏は「個に応じた指導」を実現するために、授業の在り方を広げる必要性を指摘します。具体的には以下の「10の学習プログラム」を提示しています。
•補充指導(マスタリー学習)
•学力別指導(アビリティ・グループ学習)
•反転授業(フリップ・オーバー学習)
•一人学習(マイペース学習)
•二人学習(ペア共同学習)
•小グループ学習(グループ協働学習)
•発展課題学習(エンリッチ学習)
•課題選択学習(トピック学習)
•自由課題学習(テーマ学習)
•自由研究学習(インディペンデント学習)
ここではその一つひとつを解説することはできませんが、一つ言えることは、加藤氏の整理は、「個に応じた指導」と「一斉授業」の違いを比較しながら考えるうえで、とてもわかりやすい視点を与えてくれる、ということです。授業に対し、「一斉授業」の形態のイメージだけしかもっていないと「子どもに任せる授業」をイメージすることはできないでしょう。

『「生涯にわたって能動的に学び続ける力」を養う教科教育への挑戦』
(東洋館出版社)加固希支男 著
加固希支男(かこ・きしお)氏は、子どもが生涯にわたって学び続ける力を育むために、「見方・考え方を働かせて、自ら問題を発展させていくような学習」の重要性を述べています。
たとえば、学年のはじめから子どもたちに「今日から自分たちで算数を進めてごらん」と任せきりにしたらどうなるでしょうか。きっと、子どもたちは何をしてよいかわからず、見方・考え方を働かせる機会も、学び方を身に付ける機会も失ってしまいます。
そこで大切になるのが一斉授業です。一斉授業を「見方・考え方をどう働かせるかを学ぶ場」と位置づけます。単元の導入で教師が全員に共通する見方・考え方を示したり、既習の見方を再確認したりして、学びを発展させるための足場をつくります。
見方・考え方を土台にし、自ら問いを立て、問題を広げていく学習こそが「価値ある」個別学習や自由進度学習です。子どもに任せる授業であっても、教師は子どもが見方・考え方を働かせ、「深い学び」につながるように関わっていくことが求められます。
3 効能・効果(この本から得られる質問・悩みへのヒント)
【くぼさんへの回答】
子どもの実態や成長に合わせて、課題・時間・教材・結論を任せていく!
授業を「子どもに任せるか」・「教師が教えるか」、また「一斉授業か」・「自由進度学習、自己調整学習か」といった二項対立で考える必要はありません。大切なのは、子どもの実態や成長に応じて、授業の中でどこを任せられるかを見きわめ、少しずつその範囲を広げていくことです。
加藤幸次氏が整理した一斉授業の骨組み「同一課題・同一時間・同一教材・同一結論」の視点は、そのまま「子どもに任せる可能性」となります。
•「課題」を子ども自身が選ぶ
•「時間」の使い方を自分で調整する
•「教材」を自ら探すなど工夫して使う
•「結論」を一つに収束させず、多様な答えを尊重する
こうした視点を取り入れると、「任せる授業」と「教える授業」を往復させながら、子どもの主体性を少しずつ育てることができます。
また、加固希支男氏が強調するように、子どもが自ら学びを発展させていくには「見方・考え方を働かせること」が不可欠です。そのためには、学び方を学ぶための一斉授業も大切にする必要があります。単元の導入などで共通の見方・考え方を顕在化させる場をもち、そこから個別学習や自由進度学習へとつなげていく設計が有効です。
こうした工夫によって、教師がすべてをコントロールする授業から一歩ずつ離れつつ、子どもの成長に応じて「任せる部分」を増やしていくことができます。そして、子どもにとっては「自分で学ぶ」手応えを実感しながら、深い学びへと向かうことができるのです。
4 用法・作用(りょー先生はこうしている!・こんな経験をした!)

1年生の国語「くじらぐも」の単元で、子どもに任せてみた!
私は国語「くじらぐも」で、課題や時間の使い方を子どもに大きく任せる実践をしました。ですが、いきなり任せるのではなく、単元の導入では一斉授業を行い、共通する「見方・考え方」を示すことを大切にしています。
①単元導入:一斉授業で土台づくり
1時間目では初発の感想を話し合い、物語に対してどんな疑問や感想をもてばよいかを共有しました。
2時間目では、バラバラの挿絵を並べ替えてあらすじを確認し、物語全体の流れをとらえました。
この2時間で単元のテーマを「くじらぐもを読んで、みんなで想像しよう」と位置づけ、「きっと〜だと思う。なぜなら…」「…と書いてあるから、きっと〜だと思う。」という言い方で話し合うことを子どもたちと約束しました。これによって、文章から想像するという共通の“見方”を意識させました。
②単元の展開:任せる学習へ
3〜7時間目は子どもに任せた展開です。場面ごとに読み進めながら、課題やグループでの時間の使い方を子どもに委ねました。授業はシンプルに以下の流れで展開しました。
1.それぞれのペースで音読
2.想像したことを教科書に書き込み
3.3人グループで交流
4.全体で話し合う
グループ活動では、子どもたちが自分で吹き出しを加えたり、動作化して音読を比べたり、文章に曲をつけて歌ったりと、自発的な広がりが生まれました。
全体での話し合いでは、教師は「どんなことを想像した?」と問いかけるだけ。出てきた問いを問い返すことで、子どもが自ら教材に食いつき、発見を広げ、気づきを深めていきました。
③単元のまとめ:学びを形にする

単元の最後には「自分がくじらぐもにのれたら…」というテーマで作品をつくり、個々の読みをまとめました。
この実践から実感したのは、導入で共通する見方・考え方を一斉に共有しておくことで、任せた学習が“ただの自由時間”ではなく、深まりを生む学習に変わるということです。
5 まとめ

「何を、どの程度」任せるのかを丁寧に見極める!
子どもの成長を見ながら、授業に工夫を重ねていく!
「教える」か「任せる」かを二者択一で考える必要はありません。大切なのは、子どもの実態や成長に応じて、少しずつ任せる範囲を広げていくことです。
1年生であっても、これまでの学習経験や育ちがあれば、課題や時間の使い方を任せても深い学びにつながります。しかし、自由時間になるとふざけてしまい学習に向かえない子どもが多い状態では、任せる授業は成立しません。だからこそ教師は、「何を、どの程度」任せるのかを丁寧に見極めることが求められます。
一つの型にこだわる必要はありません。時にしっかり教え、時に思い切って任せる。その往復の中で、子どもは少しずつ自分で学ぶ力を育てていきます。
私たち教師の役割は、子どもの成長を見ながら、授業に工夫を重ねていくことです。授業の形を変えることを怖れず、子どもの主体性を育てる道を一歩ずつ切り拓いていきたいと思います。
◉今回の書方箋
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- 書籍名:シリーズ学びの潮流4『しっかり教える授業・本気で任せる授業』
- 編集代表:奈須正裕/編著:齊藤一弥・奈須正裕・佐野亮子
- 出版社:ぎょうせい
◆りょー先生からひとこと
「知識伝授型」と「思考力重視型」、二項対立で語られがちな授業スタイルを往復させる視点を提案。本書はシリーズ図書の一冊であり、教え込み授業から考えさせる授業へ、知識・技能注入から資質・能力(コンピテンシー)育成への転換を示す一冊です。
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- 書籍名:『個別最適な学び・協働的な学びの考え方・進め方』
- 著者:加藤幸次
- 出版社:黎明書房
◆りょー先生からひとこと
長年「指導の個別化・学習の個性化」に取り組んできた著者が、Society5.0時代にふさわしい学びを提案。一斉授業を越え、個別最適な学びと協働的な学びを歴史的背景とともに整理し、探究的な学習の方法を詳しく解説しています。
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- 書籍名:『「生涯にわたって能動的に学び続ける力」を養う教科教育への挑戦』
- 著者:加固希支男
- 出版社:東洋館出版社
◆りょー先生からひとこと
「主体的・対話的で深い学び」の先にある目標を、算数教育を通して具体的に示した一冊です。子どもが自ら問いを立て、学びを広げていく力を授業でどう育てるかを、実践に基づいて提案しています。
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「あなたのお悩み聞かせてください!」
杉本遼先生『悩みを解決する「教育書」~あなたによく効く“書方箋”~』連動企画!
この連載では先生の皆さまから学校での困りごと・悩みを募集しております!
日々の業務でもやもやしていること、子どもや保護者、先生間のやり取りで悩んでいることなど、なんでもかまいません。
例えば…
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ご採用された方には、連載にて書(処)方された書籍を1冊プレゼントいたします!
りょー先生に相談してみたい…!と考えていらっしゃる方は、この機会にぜひぜひご応募ください。
杉本遼
私立宝仙学園小学校
教員15年目
東京都公立小学校、国立法人東京学芸大学附属大泉小学校を経て現職。
日本道徳教育学会・日本道徳教育学会神奈川支部 学会員
道徳科を中心に、「子どもも先生も楽しい授業を創る」実践研究を行う。
教育書 1000 冊所持の教育書コレクター
学習サークル 運営・代表「【楽創】子どもも先生も楽しい授業を創る」
<主著>
・『Qの仕掛けで教材研究・パワー全開で道徳科授業』杉本遼(東洋館出版)
・『道徳的判断力を育む授業づくり』髙宮正貴・杉本遼(共著)(北大路書房)
・「子どもの問いからはじめる!哲学対話の道徳授業」杉本遼、町田晃大、髙宮正貴、藤井基貴(編著)(明治図書出版)
・『小学校道徳 発問組み立て辞典』杉本遼・髙宮正貴(共著)(明治図書出版)