2025.12.17

第24回 学校と関係機関との連携・協働(ネットワーク型支援チーム)による諸課題への対応の充実|Web月刊生徒指導 「新しい生徒指導」の基礎基本 ー関係機関との連携編ー

この連載について

この連載では、広く、学校で働く教職員、保護者、地域の皆様に向けて、2022年12月に改訂された『生徒指導提要』や、国の施策、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターで行っている調査研究などをもとに、生徒指導の基礎・基本をご紹介していきます。特に、2025年1月からは、いじめや不登校などの生徒指導上の諸課題をテーマに連載をします。

学校を連携・協働の場とした「ネットワーク型」のチーム支援

 2022年12月に改訂された「生徒指導提要」では、チーム支援が強調されています。その理由の一つに、児童生徒の諸課題の背景が一層複雑、多様化しており、児童生徒のニーズに適った支援を提供する上で、「チーム学校」のコンセプトが示すように、学校を場に地域の関係機関等と連携・協働する必要があるためです*1

 この地域の関係機関等と連携・協働して行うチーム支援の体制について、「生徒指導提要」では、「ネットワーク型支援チーム」と呼んでいます*2このネットワーク型のチーム支援は、学級・ホームルーム担任による個別支援ないしは学校単独での対応が難しい場合の支援(困難課題対応的生徒指導)として、最も求められるといえます。

 ですが、ネットワーク型のチーム支援は、困難課題対応的生徒指導の場面にのみとどまるものではありません。課題の早期対応(課題予防的生徒指導)でも重要な機能を発揮します。課題の早期対応の段階で、その児童生徒に必要な支援を関係機関等との連携・協働によって提供できることで、結果的に、その児童生徒が学校教育から離脱することを防ぐことになる場合があります。その他にも、各種の予防教育の拡充の観点から日常的に連携・協働を進めることは、学校と関係機関等との関係性の構築につながり、その効果は、何かしら課題が発生した時の緊急対応の充実にも資することになるでしょう。

 これらのことから、学校を関係機関等との連携・協働の「場」とすることには教育上、重要な意義があるといえます。

「チーム支援」を進めるための包括的な体制整備(4つの視点から)

 学校を基盤とした関係機関との連携・協働を進める上では、包括的な体制整備が求められます。図1は、4つの視点から見た連携・協働の体制を表したものです。4つの視点とは、「学校の指導体制(保護者の参画含む)」「学校外の支援体制」「学校と関係機関の接続体制」及び「連携・協働のコンプライアンス」であり、それぞれの視点から、連携・協働体制を見立てて、阻害要因を把握して、それを取り除き、充実・改善を図る必要があります。

図1 連携・協働体制に関する4つの視点

 「学校の指導体制」の視点とは、学校内の指導体制の整備・構築の充実度合いに関することです。学校が関係機関と連携・協働することは、組織としての行動の延長上にあるため、学校の指導体制(例えば、管理職のスタンス、生徒指導の方針、教職員同士の同僚性等)が影響を与えます。

 「学校外の支援体制」の視点は、学校側にとって、学外の支援がどのように用意され、運用されているのか、学校の目線でその支援はアクセスしやすく、効果を実感できるものとなっているかといったことで、教育委員会や関係機関等による学外チーム支援の体制に関することです。

 「学校と関係機関の接続体制」の視点とは、学校と関係機関を円滑に接続できる体制が準備されているか、それが機能しているかどうか、その充実度合いに関することです。具体的には、学校と関係機関とをつなぐコーディネーター機能を有する専門の職員(例えば、スクールソーシャルワーカー)の配置等が挙げられます。

 「連携・協働のコンプライアンス」の視点とは、学校と関係機関等とがパートナーシップを築き、情報共有しながら、具体の行動を伴う取組を行う上で、法的適正性等が担保されているかに関することです。教育委員会などの学校の設置者が、「要保護児童対策地域協議会」や「子ども・若者支援地域協議会」の構成員になる際には、会議によって個人情報の取扱いが異なる場合があることに留意する必要があります*3

 上記の4つの視点は、どこか一つの組織や機関で対応が完結できるものではありません。それぞれの立場において、どの視点の、どういった取組であれば、充実・改善していくことが可能か、確認・点検しながら進めていくことが求められます。

国が示すチーム支援のポイント(3つの観点から)

 令和7年10月31日に、こども家庭庁支援局虐待防止対策課と文部科学省初等中等教育局児童生徒課より「関係機関等が連携したこども・若者支援体制の構築等の推進について」の事務連絡が出されています*4この事務連絡では、関係機関等が連携した支援体制の構築について、「学校における対応」「学校の設置者における対応」及び「地方公共団体の福祉部局などの関係機関等(学校やその設置者を除く。)における対応」の3つの観点から対応のポイントが示されています。

 「学校における対応」では、まず、困難を有する児童生徒の状況の把握に努めることとされています。この困難とは、様々なケースがあり得ますが、例えば、未修学やヤングケアラー、虐待、非行、いじめ、不登校などが挙げられます。

 また、状況把握を基に、必要に応じて、困難を有する児童生徒やその保護者を適切な関係機関等につないだり、関係機関等が行う支援を周知したりすることとされています。関係機関へ橋渡しする際に、学校が相談できる機関として、「こども家庭センター」といった地方公共団体の福祉部局や、地域の「子ども・若者総合相談センター」、「子ども・若者支援地域協議会」などが活用できます。そして、学校が関係機関等に児童生徒をつなぐ場合の調整では、「スクールソーシャルワーカー等が担うことが想定される」とあります。

 教育委員会等の「学校の設置者における対応」では、スクールソーシャルワーカーの配置を進めること、「要保護児童対策地域協議会」や「子ども・若者支援地域協議会」などの構成員に加わり関係機関等との日頃からの関係構築を行うこと、学校に地域の関係機関等の連絡先を周知しておくこととされています。

 「地方公共団体の福祉部局などの関係機関等における対応」では、学校による状況把握を踏まえて適切に対応すること、「子ども・若者総合相談センター」や「子ども・若者支援地域協議会」が未設置の地方公共団体においては、ワンストップで子ども・若者を支援につなげることができるよう設置の検討を進めることとされています。

さいごに

 2年間にわたるWeb月刊生徒指導「『新しい生徒指導』の基礎基本」は、今回が最終回になります。お読みくださった方、また、このような連載の機会をいただいた学事出版に感謝いたします。この連載は、2022年12月に改訂された「生徒指導提要」や、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターで行っている研究(特に学校風土に関する研究)を紹介することを中心にした連載でした。

 「生徒指導提要」や過去の手引などの公的な基本書を踏まえて、生徒指導について筆者なりに定義すると「生徒指導とは、すべての児童生徒が、自ら個性と社会性を伸長することができるように、すべての教職員(学校の教育活動に関わるすべての大人)によって、児童生徒一人一人の人格と人権の尊重を前提に、教育課程の内外を問わずあらゆる教育活動を通して行われる、支援の総体のこと」です。生徒指導、特に発達支持的生徒指導は、学校教育の基底を成すものであり、これからも学校が失ってはならない重要な機能であり続けると考えます。

 本連載でも繰り返し述べてきましたが、良好な学校風土を形成し、児童生徒が「学校とのつながり」意識を育むこと、すなわち、児童生徒一人一人が、学校にいる大人と他の子どもたちと豊かな関係性を築き、「人として気にかけてもらっている、大切にされている」という実感を育むことが、生徒指導上の諸課題の未然防止にとどまらない、全人的な発達や成長に寄与します。今後も当センターでは、児童生徒の最善の利益の達成に資する調査研究を行い、その社会的還元に努めてまいります。

 


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