生徒指導は管理職の意向が表れやすい
「新しい校長先生になってから、去年までと言っていることが違う」
4月の職員室で、こんな声を耳にしたことはないでしょうか。
生徒指導は、学校の中でも管理職の考え方がとくに色濃く表れる領域です。だからこそ、管理職が替わったとき、現場の先生方の気持ちは大きく揺れます。
近年、この「揺れ」が広く注目された例が、千代田区立麹町中学校です。工藤勇一氏が2014〜2019年度に校長を務め、服装を「TPOに合わせて生徒自らが選ぶ」とするなど、生徒の自主性を重視した改革で全国的に注目を集めました。その後、2023年度に就任した堀越校長のもとで、方針転換が行われました。2026年には堀越氏が着任後の2年半を振り返る書籍を出版し、工藤氏側が反論するなど、議論が続いています。
ここで、どちらの方針が正しいかを論じるつもりはありません。注目したいのは、学校で生徒指導の方針転換がなされたとき、そこで働く先生方がどう動けばよいのかという点です。これは特別な学校だけの話ではなく、全国のどの学校でも起こりうることだからです。
方針の変更が、先生の心に与える影響とは
自己決定理論では、人が意欲的に働くためには、次の三つが大切だとされています。
①やれているという手応え(有能感)
②自分で決めているという感覚(自律性)
③周囲とのつながり(関係性)
管理職の交代による方針転換は、この三つを同時に揺さぶります。①積み重ねてきた指導が否定されたように感じれば有能感が下がり、②判断の余地が狭まれば自律性が下がり、③管理職や同僚と意見が割れれば関係性にも影響が出てきます。
このような中、意欲が落ちるのは、ごく自然な反応です。そう捉えると、必要なのは無理に気持ちを奮い立たせることではなく、揺れても動ける手順を持つことではないでしょうか。

方針が変わったときに、まずやること
一つ目は、変わったものと変わらないものを分けることです。
新しい方針を聞いたら、「ルール(手段)」と「目的」に分けて整理します。服装でも持ち物でも、背景にある目的、たとえば「生徒が安心して学べる環境をつくる」ことは、前の方針と共通していることが少なくありません。目的が重なっているとわかるだけで、「全部否定された」という感覚はやわらぎます。
二つ目は、「なぜ」を確認することです。
たとえば「今回の方針で、とくに大切にしたいことは何ですか」「想定外の場面では、どう判断すればよいですか」のように、批判の形ではなく、確認の形で管理職に尋ねます。理由がわかれば、納得はできなくとも、多少なりとも理解を示せるでしょう。
三つ目は、自分の「軸」を書き出すことです。
運用の中で変えるものと、変えないものを紙に書いてみます。たとえば「叱るときは理由を必ず伝える」「指導した翌日にひと言フォローする」といったものです。運用は方針に合わせて変えても、軸は持ち続けることができます。
四つ目は、学年や分掌で基準を揃えることです。
先生ごとに対応がばらつくと、いちばん混乱するのは生徒です。全員で揃える基準は三つ程度に絞り、それ以外は各自の裁量に任せます。「全部を揃える」と決めると、かえって運用が続きません。
五つ目は、生徒に自分の言葉で説明することです。
ルールの変更は、子どもたちには「大人の都合」に見えがちです。「なぜ変わるのか」「変わらないことは何か」を、先生自身の言葉で伝えます。この一手間が、生徒の納得感と、先生との信頼関係を支えます。
六つ目は、数か月後に事実で振り返ることです。
遅刻や欠席の様子、トラブルの件数、生徒の表情など、感想ではなく事実を集めておきます。そのうえで振り返りの場で管理職に共有します。賛成であっても反対であっても、事実があれば対話は建設的になります。
納得できないときは
どうしても納得できない方針に出会うこともあります。そのときは、すべてを飲み込む必要はありません。ただ、異論のしかたには工夫が必要です。ポイントとしては二つ。異論は「人」ではなく「事実」に向けること、そして職員室での雑談ではなく、会議や面談など、きちんと受け止めてもらえる場で伝えることです。この二つを意識するだけで、同じ意見でも届き方が大きく変わります。
管理職は、数年で替わることがあります。けれども、目の前の子どもたちは、その間も毎日登校してきます。方針が変わっても変わらない、自分なりの軸を持っておくことで、先生自身のモチベーションを守り、子どもたちに安定した関わりを届けることにつながるのではないでしょうか。