この連載について
①教職員の生活を支えるための〈給与規程〉、②子どもの学習環境を支えるための〈就学支援〉、③教育活動や学校運営を支えるための〈学校財務〉、この3領域を「教育財政領域」と定義し、これらにかかる法令や理念の解説と合わせて実践紹介などもしていきます。若手教職員をメインターゲットとして、ライト&フランクな連載にしたいと考えています。なお、本連載は「ヤナギサワ事務主査と考える──学校とお金の話」(全24回)の続編となります。
今回は、深刻なお話です。就学支援制度の具体的な取り組みを考えるまえに、紹介したい本があります。ぜひ、本書をお読みのうえで就学支援について考えていただけたら幸いです。山寺香 著(2017)『誰もボクを見ていない──なぜ17歳の少年は、祖父母を殺害したのか』ポプラ社、井上英夫・山口一秀・荒井新二 編(2016)『なぜ母親は娘を手にかけたのか──居住貧困と銚子市母子心中事件』旬報社です。センセーショナルなタイトルであり、2冊とも「なぜ」という副詞が置かれ、少年の犯罪と母の心中理由を問いかけています。そこに共通する社会問題が“貧困”です。
予備知識として、子どもを取り巻く深刻な環境について書籍から学びましょう。ですが、このスペースではとても語り切れないので、ぜひ秋の夜長に読書をおススメします(ちょっと早いか)。

「埼玉県川口市で発生した凄惨な事件を丹念に取材した記者が、少年犯罪の本質に深く切り込んだ渾身のノンフィクション」──これは出版社のキャッチコピーだが、まさにそのとおり。「素行の悪い不良少年が遊ぶ金ほしさに祖父母を殺してしまった」というだけの事件で終わらせることはできず、「法廷で明らかになった少年の生い立ちは常軌を逸した過酷なもの」であった(p.4)。
少年が10歳ころに両親は離婚し、働かないが浪費癖のある母親、その知人男性と暮らす。その後、義父との同居も始まったが、転居を繰り返していくうちに「居所不明」*1となる。そこからは、学校にも通っていない。そのとき、11歳である。野宿やモーテルでの生活が続き、心理的・身体的・性的虐待を受け、借金も増えていく。16歳のとき義父が失踪し、少年は家計を支え始める。だが、その1年後……祖父母を殺害し、強盗殺人容疑で逮捕された。
著者は述べる。少年は、「追い詰められて事件を起こし『加害者』となったが、「福祉行政が保護すべき『被害者』だった」ともいえるだろう(p.6)。少年は述べる「『こんな社会になってくれ』と望むだけで、誰もそうしようと行動しなければ意味がありません。(‥)貧困のない社会を望むなら普段からそのような人を見つけたら助けてあげてください」(p.189)……と。

「日本全体に格差・不平等、貧困が拡大深化する中で起きた事件。その背景を明らかにし、悲惨な事件を起こさせない社会を提言する」──こちらも出版社のキャッチコピーである。その母親は、給食センターに勤務するひとり親であり、児童扶養手当も受給していた。それでも生活に困窮し、生活保護の相談にも行くが、仕事をしているから「申請してもお金がおりないよ」といわれ、申請には至っていない(p.19)。その後、社会福祉協議会から娘の中学校進学に向けた費用(制服代など)を限度額まで借り入れる。それでも足りず、いわゆる「ヤミ金」から借金もした。そして、県営住宅の家賃を滞納し、強制執行(立ち退き)が下される。その当日、娘をハチマキで絞殺した。
就学援助制度も利用していたが、当時は中学校へ入学する前ではなく、入学後に援助された。そのため、一時的な立替が必要だった。経済的理由によって就学困難な家庭を救済する制度が機能していなかったという行政制度の問題(現在では、9割弱の自治体で改善されている*2)、学校指定品の高額化という学校現場が改善していくべき課題も浮き彫りになった事件である。
2025年6月に刊行した『学校安全がよくわかる本 環境整備・学校防災・安全教育の視点で子どもを守る』の出版を記念し本書を基にした学習会を、現代学校事務研究会様主催にて開催いたします。
みなさまぜひご参加ください!
■開催日時:2025年10月12日(日)13時30分~17時00分
■開催会場:川口市立映像・情報メディアセンターメディアセブン(埼玉県川口市川口1-1-1 キュポ・ラ7階)
■参加費:500円
■定員:20名/オンライン(上限100名)併用開催
※現地参加・オンラインともに定員に達し次第、締切となります。
■参加特典:申込者は本書を2割引で購入できます。
栁澤先生からコメント
「チームとしての学校」が叫ばれて久しい現代──「学校安全」も例外ではありません。学校環境や防災=管理職、安全教育=教員というように分類されやすい領域かもしれませんが、総務・財務をつかさどる事務職員の知見も「学校安全」には欠かせません。それを証明するような「学校安全」にかかる事務職員の実践が9本収録されています。そして、実践を補完する理論編、コラム4本と特別支援教育の視点による補論が置かれています。本書は、事務職員による「学校安全」テキストではありますが、管理職を含めた教職員全体、「チームとしての学校安全」テキストという構成です。子どもたちの安全をチームで守るために、お読みいただけたら幸いです。