2025.09.17

第21回 欠席期間中の子どもの行動と不登校支援|Web月刊生徒指導 「新しい生徒指導」の基礎基本 ー不登校編ー

この連載について

この連載では、広く、学校で働く教職員、保護者、地域の皆様に向けて、2022年12月に改訂された『生徒指導提要』や、国の施策、国立教育政策研究所生徒指導・進路指導研究センターで行っている調査研究などをもとに、生徒指導の基礎・基本をご紹介していきます。特に、2025年1月からは、いじめや不登校などの生徒指導上の諸課題をテーマに連載をします。

 前回前々回と引き続き、栃木県教育委員会の「不登校に関する調査」、特に、今回は保護者への調査の結果を参照して、不登校を未然防止することや、欠席がちな子どもを早期に発見し対応すること、場合によっては適切な関係機関を紹介し学校も関わりつつ確実に橋渡ししていくことの大切さについて、考えます*1

調査結果から見えてくる、不登校の子どもが抱える苦悩

 栃木県教育委員会が行った「不登校に関する調査」の保護者調査では、子どもが学校を欠席している(欠席がちである)保護者の回答について、欠席が1か月以上と1か月未満とに分けて、比較がなされています。

 今回は、保護者調査の結果のうち、「学校を休んでいる間(休みがちになっている時)の子どもの様子」に着目します。保護者は、子どもにとって最も身近な存在であり、保護者による子どもの振る舞いや態度、行動の観察は、信頼性の高いものといえます。

 この結果から見えたことは、主に、以下の2点です。

〇子どもの「心が安定していた」とする回答割合は、いずれの校種でも1か月以上の欠席のほうが低い(表1)。

表1 「心が安定していた」とする回答割合
(栃木県教育委員会(2025)「不登校に関する調査 集計結果」をもとに作成)

〇欠席が1か月以上の場合、いずれの校種でも子どものリスク行動が多岐にわたる(例、長時間のインターネットやゲーム、他人との関りを避ける等)とともに、それらの割合が高い。

 表2から表4は、いずれの校種においても、欠席1か月未満と1か月以上との間に、10ポイント以上の差があった項目をまとめたものです。また、参考として、図1から図3に、小学校、中学校及び高校の順に保護者の回答結果を示します。

表2 小学校
(栃木県教育委員会(2025)「不登校に関する調査 集計結果」をもとに作成)

 

表3 中学校
(栃木県教育委員会(2025)「不登校に関する調査 集計結果」をもとに作成)

 

表4 高校
(栃木県教育委員会(2025)「不登校に関する調査 集計結果」をもとに作成)

 

図1 学校を休んでいる間(休みがちになっている時)の子どもの様子(小学校、欠席傾向別)

 

図2 学校を休んでいる間(休みがちになっている時)の子どもの様子(中学校、欠席傾向別)

 

図3 学校を休んでいる間(休みがちになっている時)の子どもの様子(高校、欠席傾向別)

 

 この結果から、欠席が長期になるほど、子どもの心の安定が失われ、広範な非社会的な行動が表出されてくる傾向が見えてきます。当事者である子どもと保護者の苦悩が垣間見える結果であり、それゆえに、教師を含め不登校に関わる支援者全体に、不登校の未然防止を充実させること、欠席しがちになっている段階で早期に子どもを発見し対応すること、そして、ケースによっては適切な関係機関を紹介し学校も関わりながら多様な学びの場へと橋渡ししていくことが大切だといえます。

「問題行動」とは見なさないが、「支援」は必要

 さらに、不登校支援を考える上で、児童生徒は相談しない傾向にあることにも留意が必要です。この「不登校に関する調査」の児童生徒への調査では「欠席したいと思った時、誰にも相談しなかった」の回答割合は、小学校36.2%、中学校45.2%、高校48.4%となっています。

 2016年12月に、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」が成立、2017年2月に施行されました。この法律は、不登校児童生徒への支援や就学の機会の提供等について定めています。

 そして、この法律の第7条を受けて、2017年3月に、文部科学省により「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する基本指針」が策定されました*2。同指針では「不登校は、取り巻く環境によっては、どの児童生徒にも起こり得るものとして捉え、不登校というだけで問題行動であると受け取られないよう配慮し、児童生徒の最善の利益を最優先に支援を行うことが重要である」としています。

 さらに、2019年10月に文部科学省初等中等教育局長通知「不登校児童生徒への支援の在り方について」が発出されました*3。これは、現在の不登校に関する基幹通知になるものです。以下に、通知で示された「1 不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方」のうち、「(1)支援の視点」と「(2)学校教育の意義・役割」の一部について、引用します。

(1)支援の視点


不登校児童生徒への支援は、「学校に登校する」という結果のみを目標にするのではなく、児童生徒が自らの進路を主体的に捉えて、社会的に自立することを目指す必要があること。また、児童生徒によっては、不登校の時期が休養や自分を見つめ直す等の積極的な意味を持つことがある一方で、学業の遅れや進路選択上の不利益や社会的自立へのリスクが存在することに留意すること。

(2)学校教育の意義・役割


特に義務教育段階の学校は、各個人の有する能力を伸ばしつつ、社会において自立的に生きる基礎を養うとともに、国家・社会の形成者として必要とされる基本的な資質を培うことを目的としており、その役割は極めて大きいことから、学校教育の一層の充実を図るための取組が重要であること。また、不登校児童生徒への支援については児童生徒が不登校となった要因を的確に把握し、学校関係者や家庭、必要に応じて関係機関が情報共有し、組織的・計画的な、個々の児童生徒に応じたきめ細やかな支援策を策定することや、社会的自立へ向けて進路の選択肢を広げる支援をすることが重要であること。さらに、既存の学校教育になじめない児童生徒については、学校としてどのように受け入れていくかを検討し、なじめない要因の解消に努める必要があること。

 その後、2024年8月に文部科学省初等中等教育局長通知「不登校児童生徒が欠席中に行った学習の成果に係る成績評価について」とともに同通知の別紙として「不登校児童生徒への支援に対する基本的な考え方」が発出されました*4。この通知別紙は、上述の2019年10月の「不登校児童生徒への支援の在り方について」の基本的な考え方を再周知したものです。

 不登校の積極的な意味とともに、学業の遅れや進路選択上の不利益、社会的自立へのリスクが存在しうること、義務教育段階の学校の役割は大きく学校教育の一層の充実を図るための取組が重要であること、既存の学校教育になじめない児童生徒については、学校としてどのように受け入れていくかを検討し、なじめない要因の解消に努める必要があることなどが、あらためて強調されています。

 様々な理由や背景から起こる不登校について、問題行動と見なさないことは、当事者である不登校の子どもと保護者に対する二次被害を生じさせないためにも、社会的なまなざしとして重要な意義があると考えます。ですが、不登校は問題行動ではないから、未然防止や初期対応、支援の必要はないということを意味しません。欠席期間中の子どものリスク行動は、多岐にわたり、深刻です。それを間近で見ている保護者やその親族の方々も支援を求めているといえます。不登校の子どもと家庭に確実に支援が届く仕組みを考えていく必要があります。

 


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