この連載について
全事研の役員となって事務職員の育成や成長ということを考える中で、学ぶことの重要性を強く認識しているところです。もちろん、体系的な研修制度も資質・能力を身に付ける上で大事ですが、まずは事務職員自身が主体的に学び、学んだことを生かして試行錯誤を繰り返していくことが必要だと感じています。「子どもの豊かな学びのためにも、事務職員として学び続けていきたい」。そんな思いで、私自身の経験から“学び”について考えたことを綴っていきます。

この連載について
全事研の役員となって事務職員の育成や成長ということを考える中で、学ぶことの重要性を強く認識しているところです。もちろん、体系的な研修制度も資質・能力を身に付ける上で大事ですが、まずは事務職員自身が主体的に学び、学んだことを生かして試行錯誤を繰り返していくことが必要だと感じています。「子どもの豊かな学びのためにも、事務職員として学び続けていきたい」。そんな思いで、私自身の経験から“学び”について考えたことを綴っていきます。
先日、ある友人から方言についてこんな話を聞きました。
彼が転校して、新しい学校に通い始めてから1週間も経たない頃です。調理実習の際に、同級生の女子が彼に向かって言いました。
「手ぇ、切りなよ」
それを聞いたときに彼は大変に驚いたそうですが、包丁を持っていて身体の向きを変えることが危険であったために、彼女の方に振り向くことができなかったとのこと。彼女から発される言葉が意地悪な口調には聞こえなかったので、彼はその言葉の真意を知ることができずにその場は終わってしまったのでした。
彼が、その「手ぇ、切りなよ」が「手を切らないように、気を付けてね」という意味の方言であることに気付いたのは、転校してから1ヶ月ほどが過ぎてからのことです。彼は、転校先の地域の方言を理解して使えるようになったことで、コミュニケーションが円滑になり、より一層友達にも、その土地にも親しめるようになったと、子どもの頃のエピソードを私に話してくれました。
この話を聞いて、伝わらないことや理解されないことが、交友関係のつまずきなどへも影響を与えかねないかも知れないと感じました。
さらに言えば、彼女は自分が発した言葉が方言であり、「手を切らないように、気を付けてね」という、自分の意図していた意味とは違う印象を彼に与えてしまったことには、今でも気付いていないかも知れないですね。

方言ですら交友関係に影響を与える可能性があることを思うと、もし、母語が違ったら、より一層に意思の疎通は難しいはずです。そうなると、学校生活や学習への参加は、さらにハードルが上がるものになるでしょう。
みなさんもご存じとは思いますが、小中学校では過去10年間で外国人児童生徒数が1.94倍(令和7年「学校基本調査」より)に増加しています。
そのため、国は外国人児童生徒等一人一人に応じた日本語指導等の実施を実現するための「特別の教育課程」制度の導入*1や、「義務教育の段階における普通教育に相当する教育の機会の確保等に関する法律」*2の基本理念に、国籍にかかわりなく教育を受ける機会を確保することを基本理念に盛り込んでいます。また、学習指導要領でも総則において、日本語の習得に困難のある児童生徒への指導が明記されています。
これらは「児童の権利に関する条約(子どもの権利条約)」*3に基づいて制定されたものです。子どもの権利条約は1989年に国連で採択された世界的な人権条約であり、18歳未満の者を「権利を持つ主体」と位置付けています。日本は1994年に批准し、生命・発達・保護・参加の4つの基本原則に基づき、差別禁止や子どもの最善の利益、意見尊重などを保障しています。
言語が理解できないと学びが充実できないことは容易に想像できます。中でも、特に抽象的な概念の取得に困難さが表れると聞いたことがあります。例えば、足し算や掛け算は具体的にリンゴを使うことで理解の助けとなりますが、マイナスの数では具体的に示しづらいため理解させることがより難しいでしょう。あるいは、時間は時計を見ながら理解できますが、それが道のりと合わさった速さについて考えるとなると、同様に大変でしょう。きっと、愛や勇気などを理解するのも、教育活動のなかで学ぶことは難しいのでしょうね。
ただ、これらはあくまでも難しいのであって無理なわけではありません。『学校生活のためのにほんご みちしるべ』では、学習参加のための前提知識について様々な場面を想定しながら紹介してくれています。例えば、職業について学ぶ章では、修学旅行を題材にして、旅館のスタッフの役割や日本ならではの“布団をしく”作業なども解説しています。最後には“おもてなし”の感覚をも理解できるように試みがされています。
もちろん学校生活の全てが網羅されているわけではありませんが、多くの学びの前提知識を得られるに違いありません。そして、私たちが目を通して、子どもの状況によっては前提知識を得ることが必要であると知ることで、今まで以上に手厚い支援が行えるようにも思えました。
ところで、“おもてなし”とは見返りを求めず、相手を思いやり、心からのサービスを提供する日本独自の文化です。そうした抽象的ですが大切なことも多くの人に伝えられると良いですね。そういえば、冒頭に紹介した彼の転校先の自治体には「おもてなし課」があると聞いた覚えがあります。
前田先生からコメント
事務職員の標準的な職務にも示された学校教育におけるICTについて、事務職員の視点から捉えた書籍『教育ICTがよくわかる本』の発行に携わらせていただきました。それぞれに現場で実践されている事務職員の素晴らしい取組も載っています。学校の現状や、取組の背景、うまくいったこと、うまくいかなかったこと、取組を通して実践者が学んだことなど、読み手にとって考えを広げてくれる本であると強く感じています。事務職員のみなさんの学びのきっかけとなること、そして、事務職員以外の方々には、事務職員との協働や、事務職員の活用を促進していただくきっかけとなることを期待しています。



