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2025.10.22

第7回 「授業の目標について、どのように考える?」| 悩みを解決する「教育書」~あなたによく効く書方箋~

この連載について

悩める先生方からいただいた日々の仕事の中で困っていること・助けてほしいことなどのお悩みに対し、処方箋…書方箋として教育書を紹介します!
コンシェルジュは、教育書を読み漁り、その蔵書は1000冊以上!という現役小学校教師・ りょー先生こと杉本遼さん。
ただただ悩みに合った書籍を紹介するだけではなく、りょー先生がその本から学び、実践してきた経験を交えながら、解決への糸口を見つけ出していく、まったく新しい実践的ブックレビュー企画です!! 


また、本連載では読者の皆さまよりお悩みを受け付けております!
りょー先生に相談してみたい!という方はこちらのフォームよりご応募ください!!

 

◉今回の質問

「授業の目標について、どのように考える?」

小学校の先生5年目です。
授業をする際に、「次にこんな発問をしよう。そして、〇〇と発言した子を取り上げて…」と目標を達成するために授業を行うという思考が強く働きすぎてしまいます。
授業は子どもたちの成長のためにあるので、私の姿は望ましいものではありません。
授業の目標と子どもの学びの両立について、考え方を教えていただけると幸いです。

(じーさんさん 小学校教員 神奈川県)

1 今回のテーマ

質問ありがとうございます! 早速、ご相談について考えていきましょう。

この質問に共感をしている先生は少なくないと思います。
授業の目標に向けて板書計画や発問構成を丁寧に考えれば考えるほど、「目標を達成すること」にこだわってしまい、描いたストーリーへと導きたくなってしまいます。その姿勢の裏には、子どもの学びを確実に保証したいという、教師としての誠実な願いがあるのだと思います。
しかし、少し立ち止まって考えてみたいのです。

「授業の目標」ってどのようなものなのでしょう? だれに対しての目標なのでしょうか?
そして、「授業の目標」の達成を、どう判断するのでしょうか?

今回は、「授業の目標」について、考えてみたいと思います。
(なお、授業での教師のあり方については、これまで連載した記事の中で書いてきました。参考になるところもあると思いますので、以下の記事も併せて読んでみてください。)

第2回 どんなことを授業で大事にしていますか?
第3回 子どもの発言に戸惑う…
第4回 ちゃんと準備したのに、授業が思うように進みません…
第5回 授業が盛り上がらない。どうすれば…
 

悩みと疑問によく効く「書方箋」出しておきまーす!

 

2 書方箋

『形成的な評価のために』(明治図書出版)
梶田叡一/著

梶田叡一(かじた・えいいち)氏は、本書で授業の目標を「達成目標」「向上目標」「体験目標」という三つの型で整理しています。

まず、達成目標は「知識」「理解」「技能」など、特定の教育活動の成果を確かめるものです。たとえば授業の中で「掛け算ができるようになったかどうか」といった、具体的な成果を大切にします。

次に、向上目標は「論理的思考力」「創造性」「態度」「価値観」など、子どもの内面に関わる成長をめざす目標です。子どもの考え方や感じ方の変化(「考えるようになった」「より詳しく調べるようになった」)、よりよい方向への成長が見られるか(「以前よりも上達した」)、といったことを重視します。

そして、体験目標は、子どもの習得や変化、向上を狙いとするものではなく、教育活動の中で生まれる「発見」や「ふれ合い」「感動」といった、学力の土台づくりに欠かせない体験そのものを与えていくことを目標とします。

梶田氏は、「指導におけるねらいや願いが、すぐにはっきりとした効果の見えるものばかりに絞られていたのでは、長期間にわたっての見通しを持って人間形成をはかることなど、とても不可能である」と述べています。つまり、達成目標だけにとどまらず、向上目標や体験目標を同時に追求し、相互に関わり合うことで、人間形成をめざす教育が実現すると考えているのです。
 

 

『[図解]授業づくりの設計図』
(東洋館出版社)澤井陽介 著

澤井陽介氏は、授業とは以下の図のように、「子ども・教師・教材」の三者の相互作用によって学びが成り立つと説明しています。

たとえば、「教師⇔教材」の方向(教材研究)では、教材の構造や価値を深く理解し、授業の設計を行うことが求められます。しかし、授業はそれだけでは完結しません。「教材⇔子ども」の方向では、教材が子どもにとってどのような意味や価値をもつのかを問い直す必要があります。そして「子ども⇔教師」の方向では、子どもの反応や発言をどう受けとめ、指導や評価にどう生かすかが問われるのです。

 

 

『授業研究27の原理・原則 ― 授業力向上のための実践的思考』
(学事出版)小林宏己 著

小林宏己(こばやし・ひろみ)氏は、授業の目標には「到達・達成的な目標」と「構築的・自己実現的な目標」があるとしました。

到達的・達成的な目標をもつと、一定の知識や技能を習得させるために授業が展開されます。「すでに定められている」「させられる」「しなければならない」といった義務的・受身的な性格をもち、一斉的・画一的な指導を生みやすい傾向があります。

それに対して、構築的・自己実現的な目標は、子どもと教師がともに「したい」「なりたい」という願いや求めから見いだすものであり、個々の子どもの希望や意欲に即した学びを促します。「ちょっと的外れ」「授業の進度がわき道へ」それるかもしれないが、「だけれども、よし、これを学級のみんなで取り上げて検討してみよう」というように、子どもの発想を生かして授業を展開していきます。

子どもの課題意識を前提にして、両者を相互補完的に扱うことが重要です。

 

『個の育つ学校』(明治図書出版)
上田薫・静岡市安東小学校 著

 『個の育つ学校』には、授業の目標を「子どもに位置づける」ことで、「個を生かす」授業へと転換しようとした実践が示されています。
上田薫氏・静岡市安東小学校は、「教材は子どもを育てるためにある」という立場に立ち、授業の目標を「子どもを変える・育てるためにある」と捉えました。

教材を中心に据えた授業では、教師の意識が一定時間内に一定の知識や技能を身に付けさせるといった「本時の目標達成」や「指導計画の完遂」に偏りがちになります。そのような共通目標のもとでは、子ども一人ひとりの学びを深め、発展させることは困難です。

そこで上田氏らは、子どもの言動や背景を丁寧に見取り、「この子はこういう子だから、この教材を通してこう育てたい」という個への願いを明確にして授業を構想しました。一時間の授業では二、三人の子どもに焦点化し、その子どもへの個への願いを直接、授業の目標にして授業を行っていったのです。

 

3  効能・効果(この本から得られる質問・悩みへのヒント)

【じーさんへの回答】
子どもの実態や成長に合わせて、課題・時間・教材・結論を任せていく!

目標の捉え方によって授業観は変わりそうです。
質問を寄せてくれたじーさんは、おそらく「授業の目標=達成目標」として捉えていたのではないでしょうか。確かに、単元や時数の中で「できるようにする」「理解させる」という達成目標は大切です。しかし、すべての授業で、すべての子どもが同じ目標に到達するなど、現実的にはあり得ません。

私が好きな道徳の授業では、道徳的価値を扱うため、「達成目標」の考え方はあまり馴染みません。むしろ、育みたい道徳性や一人ひとりが得る納得解といった方向性を示す「向上目標」の考え方で授業づくりをしています。

そのせいか、どの教科でも、到達的な目標よりも、「構築的・自己実現的な目標」を重視しているような気がします。少し“的外れ”でも、授業の進度がわき道にそれても、子どもの学びと成長の芽になると思う傾向があります。

ただし、それでは目標がぼやけてしまい、評価が難しくなるという課題もあります。また、授業での教師の出も、行き当たりばったりになりがちです。
だからこそ、最近は「子どもを目標に位置づける」という視点での授業づくりにチャレンジしています。

 

4 用法・作用(りょー先生はこうしている!・こんな経験をした!)

子どもを目標に位置付けて、道徳授業をしてみた!

『山びこ村の二人』の授業では、教材を出発点とせず、「子どもを目標に位置付ける」ことから授業を構想しました。

名札に付せんをつけ、カルテにクラスの子どもの様子や日常の言動を記録し、目標に位置付けて授業するタイミングを見計らいました。

この授業で焦点化したのは、日頃から指摘を受けても反省が浅く、他者との関係づくりに課題のあるAさんです。「自分で考え、反省して自分から行動を改められるようになってほしい」という願いを目標に位置付けました。

【教材『山びこ村の二人』のあらすじ】
やまびこ村に働き者の五郎と怠け者の平八という若者がいた。 
ある日、殿様がよく働く五郎の姿を見て、ほうびを与える。
五郎は村のみんなを呼び、宴を開く。しかし、村のみんなは平八には、声をかけない。
それを知った五郎はすぐに平八を呼びに行く。その後、平八は人が変わったように得意の釣りを生かし、毎日働く。

この授業では、働き者の五郎と怠け者の平八の姿を通して「公正・公平」とは何かを問います。

私はAさんに、「ちゃんとしていない人を仲間外れにするのは不平等ではないか」と平八に共感しつつ、同時に公正・公平と自主・自律を結び付けて考えられるようになってほしいと思っていました。
もともとAさんは、注意されても反省が浅く、なかなか行動に結びつかない性格だったからです。

授業が始まった当初、対立的意見が出た際、Aさんは「呼ばないのは差別だ!」と強い声で発言していました。話を聞くと、どうやらAさんは自分の性格と重ね合わせ、自分も“平八”の立場に似ていると思っていたようでした。
そこで、この授業の中で平八を宴に呼ばなかった村の人は確かに差別かもしれないけれど、ちゃんと働いていなかったことはうやむやにしてもいいの? と話を進めていったところ、Aさんは誰に対しても平等であることと、がんばりに対する公平さはちがうことだと捉えるようになったようでした。

というのも、Aさんは自分の生活に置きかえて考え、授業後には「課題をやっていないなら、やらなきゃいけない」とつぶやき、休み時間には課題に自ら取り組む姿があったからです。授業を通してAさんの変化が見られたのです。

子どもの成長を「願い」として授業に組み込むことで、「できた・できない」だけでなく「変わろうとした・考えようとした」姿を見取ることができました。
道徳授業が、子どもの人生と響き合う瞬間を生む手応えを感じた実践でした。
 

 

5 まとめ

授業の目標に「観」が出る!
授業の目標によって、「子どもの学び」も「教師の出」も変わる!

「子どもを目標に位置づける」授業づくりは、子どもの言動や背景を丁寧に見取り、個への願いを明確にできないと、できません。地道で大変ですが、年に数回でもこの実践を積み重ねることで、「授業の目標」と「子どもの学び」の両立に一歩近づきたいと思い、取り組んでいます。

今回紹介した4冊の本を読み進めていくと、「授業の目標」と一言でいっても、実に多面的で奥深いものであることがわかります。

このように考えると、授業の目標には教師の“観”が強く表れます。どんな目標を立てるかによって、「子どもの学び」も「教師の出方」も変わります。
今後も、目標を柔軟に考えて、子どもの学び・成長を真ん中に置いた授業づくりをしていきたいです。
 

◉今回の書方箋
  • 書籍名:『形成的な評価のために』
  • 著者:梶田叡一
  • 出版社:明治図書出版

◆りょー先生からひとこと

学習評価を「子どもの成長を支えるプロセス」として位置づけ、“形成的評価”の考え方を示しています。入手困難な古書ですが、「名著復刻」シリーズでも刊行されているのでAmazon購入することができます。
※左の書影は「名著復刻」のものです

  • 書籍名:『[図解]授業づくりの設計図』
  • 著者:澤井陽介
  • 出版社:東洋館出版社

◆りょー先生からひとこと

「資質・能力」「主体的・対話的で深い学び」など、複雑化する教育課題。「授業をつくるとは何か?」という根源的な問いに、図解を通して応える必携の書。

 

  • 書籍名:『授業研究27の原理・原則 ― 授業力向上のための実践的思考』
  • 著者:小林宏己
  • 出版社:学事出版

◆りょー先生からひとこと

「すぐれた授業とは何か」「この子の姿から始まる授業とは何か」。授業を構想・分析・共有するための27の原理と原則を提示。教育の本質に迫る視点が詰まっています。

 

  • 書籍名:『個の育つ学校』
  • 著者:上田薫・静岡市安東小学校
  • 出版社:明治図書出版

◆りょー先生からひとこと

授業の目標を「子どもに位置づける」という革新的な実践を示した教育書です。画一的な到達を超え、子どもの成長に寄り添う授業づくりの原点を示す一冊です。

 

「あなたのお悩み聞かせてください!」
杉本遼先生『悩みを解決する「教育書」~あなたによく効く
“書方箋”
~』連動企画!

この連載では先生の皆さまから学校での困りごと・悩みを募集しております!
日々の業務でもやもやしていること、子どもや保護者、先生間のやり取りで悩んでいることなど、なんでもかまいません。

例えば…

  • 児童それぞれの授業進捗に差が生まれていることに困っています。
  • 4月から新任教師としてちゃんと働けるか不安です。何から手を付けたらいいか分かりません…。
  • 保護者の方とうまく付き合うコツはなんですか? などなど。

ご採用された方には、連載にて書(処)方された書籍を1冊プレゼントいたします!
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